森に入ってみたはいいが、何か目的があって来たわけでもない彼女たちはただただ歩けそうな道を辿って奥に進んでいくことしかできなかった
幸運にも歩きやすいような道が1本通っており、それほど苦労せずに歩くことができている
「そろそろご飯にしようよ…」
太陽の光が届かない森の中では時間の感覚が狂うものだが、太っちょの腹時計は正確である
太っちょの腹時計に絶大な信頼を置く悪ガキたちは、この時ばかりは太っちょに従うのだ
太っちょの進言のあとの彼女たちの目的はお弁当を広げることができる広場を探すことに置き換わっていた
少女の腹も不満げに唸りをあげ始めた…ちょうどいい広場があればいいのだけれど…
全員が空腹に耐えかねて口数が減ってきた頃、ちょうどよく開けた場所に出ることができた
広場の入り口の木々は数本切られており、切り株がいくつかあった
腰を下ろすにはちょうどよく、切り株と繋がっていたのだろう太い幹がこれまたいい具合に転がっている
空腹が限界に達していた彼らは思い思いに切り株に腰掛けて、急いで持ってきた弁当を広げた
少女が選んだ切り株には煤のような汚れがついていたので、軽く払って淑女のような動作を真似て腰掛けた
ご機嫌なまま広げた弁当を一目見て、彼女は今朝の出来事を思い出す
体の弱い母が早起きをして作ってくれた弁当だったのに、どうしてか気に入らず、文句をつけたのだ
困ったように笑いながら謝る母にさらに腹が立って、嫌いと伝えて出てきてしまった
その後にお兄ちゃんに会い、今日は来られないと聞いた時に森にいくことを思い立ち、機嫌はまるっきりよくなってしまっていたので今まで忘れていたのだ
(帰ったら謝らなくちゃ)
そうぼんやり考えながらサンドイッチを口に運ぶ
少女が考え事をしている間にお弁当を食べ終えた少年たちはチャンバラに興じている
あんなに怖がっていたのに、本当にお子様なんだから…
最後のひとくちを残したまま彼らのチャンバラをぼーっと眺めていると、背後から視線を感じた
気になって振り返っても、気のせいだったのか特に変わりは無いようだった
何となく広場の入り口を見続ける
今度は背後から生臭い風が吹いてきた
うえっと顔をしかめて臭いのする方向に向き直ったが、相変わらず少年たちは飽きもせずに棒を振り回している
少年たちに臭いのことを聞こうと立ち上がった瞬間
『オランの娘よ、やっと贄となりに来たか』
地の底から這い出てきたような低い声が耳元で響き、視界が暗転した
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