陽の光がほとんど届かない鬱蒼とした陰気な森
この森の伝説は、王国内のほとんどの人間が寝る前に聞かされて育つ
普通であればその不気味さと危険さゆえに大人でも近づくことはほぼない
しかし第二次魔獣災害とそれを鎮めたヒーローズの武勇を多感な時期に間近で見聞きした子供たちはの中には、度を越えた勇敢さと好奇心を持つ者もいた
ーーーーある日少女はいつもの通り近所の悪ガキ仲間達と冒険にいく約束をしていた。
今日は口うるさいお兄ちゃんがいないことが、少女の足取りを軽くしていた
少女が思いつく冒険やいたずらはことごとくリーダーである近所のお兄ちゃんに却下されている
理由は危ないから、だ
今日はお兄ちゃんはお仕事で遊びにこられないらしい
リーダーは生まれてすぐに父親を亡くしたので、日雇いの仕事などで家計を助けている
災害孤児は珍しくなく、ちょっとした日払いの仕事には不自由しないようだ
ほとんどスキップのような足取りでいつもの広場に到着すると、やんちゃそうなそばかすの少年が怪訝そうに尋ねる
「なんでそんなに機嫌がいーんだよ」
物静かなふとっちょも不思議そうに少女の顔を見る
「今日はお兄ちゃんがいないでしょう?こんなチャンスなかなかないわ!今日こそ森にいくのよ!」
待ってましたとばかりに答えると、背の高い少年が呆れたように首を横に振った
「森はだめだってパパもママもお兄ちゃんも言ってるじゃないか…もしバレたら…」
リーダーがいないにも関わらず自分の肝煎りの案が受け入れられないことに少女は不機嫌さをあらわにする
「意気地なしに用はないわね」
そう言って少女が歩き出すと、少年たちは互いに顔を見合わせ、ずんずんと歩いていく少女の背中を追いかけていくのであった
森の入り口は聞かされていたよりは明るく、木々の色や形も珍しいもので興味をそそった
追いついてきた少年たちも思い思いにお気に入りのいい感じの棒を拾ってご満悦
先ほどまでぶーぶーと文句を垂れていたのがまるで嘘のようだ
呆れながらも自身の好奇心を抑えきれずに、こっそりと小さめの枝を拾ったあと、いくわよ、と声をかけて歩き出した
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