アウトルの懺悔

商隊とともに北の街を目指す

アウトルの話では、辻斬りの出没地点は徐々に街に近づいていっているらしい

「その辻斬りを見たことは?」

「ありませんなあ…もし会っていれば私はここにはいないでしょう」

苦笑しながら彼が話し出したのは、一つの噂だった


コントラクト王国の辺境の領地、アポネ

アポネ辺境伯の第一公子は妾の子で、第二公子である正妻の子を後継にという声が多数派だった

剣の才に恵まれた第一公子は腹違いの弟に爵位継承を譲るため旅に出たという

その後彼の噂はぱったりと途絶えてしまった

オランの山に挑み獣に喰われたという者もいれば、商人に騙され余所に売り飛ばされたのだ、などと言う者もいたが実際のところは誰にもわからない


「アポネの妾妃は東方から嫁いできたらしく、夜空のように美しい黒髪だったといいます。ところで…実は私には心当たりがあるのですよ…公子の行方に」

アウトルは冗談を言っている様子もなく、淡々と話を続ける

「私が駆け出しの頃は野心に燃えていましてね。誰よりも利益をあげること、商売のことしか考えていなかったんです。人を騙すことすら厭わなかった」

「今は違うと?」

ドラゴマンは冗談めかして尋ねたが、アウトルは真剣な目で肯首する

「私が心を入れ替えるきっかけになったのが、その公子なのかもしれないのです」


まるで夜空のように美しい黒髪を後ろで束ねた1人の青年がアウトルの店に旅支度を一式揃えたいと立ち寄った

羽織った服を帯で留める東方式の衣服を着ており、見るからに高貴な血を引いている

気ままな旅だと話すその青年は裏路地から成り上がったアウトルにとって嫉妬の対象でしかなかった

「持てる者から巻き上げたって罰は当たらない。それが当時の信条でした」

苦笑しながら話は続く


青年は直刀ではなくカタナが欲しい、とアウトルに話しかけてきた

カタナという言葉に聞き覚えはなかったが、この世間知らずの若者は金の匂いをプンプンと振り撒いている

店にある見栄えのする武具を並べて「どうか?」と尋ねても青年は苦笑しながら違うと繰り返した

商機を逃すわけにはいかないと二級三級の品から果てはガラクタから武器という武器を引っ張り出しては青年に売り込んでいく

果たして青年の食指が動いたのはガラクタの中の一振りだった


刀身は三日月のように細く弧を描いており、頼りない。歴戦の強者が力一杯叩きつければたちまち折れてしまいそうに思える

武器と言うにはあまりに非力に思えたが、工芸品としての価値は高そうである。落ちぶれた貴族から二束三文で引き上げることに成功したものの、ポリゴネアの貴族たちからの反応は芳しくなく売れ残りとして処分に困っていたのだ

「旅のお供には少し頼りないんじゃないでしょうかねぇ?」

曲刀であればと豪奢な飾りのついたシミターを売りつけようとしたのだが、頑としてこれだけでいいと譲らなかった

(まだまだ巻き上げられる)

アウトルの本能はそう告げていた


カタナと青年が呼ぶ曲刀以外の旅支度もたっぷりとふんだくり、そして曲刀には法外な値をふっかけた

青年は少し考えた末に有り金をすべて差し出してきたが、こちらの提示した金額には届かなかった

「その時点で大幅に利益を得ていたのですが、若かった私は提示した金額を譲ることができなかった」

少しだけ懺悔のような響きを含み、遠くを見つめる


支払いの補填にと仕事を紹介すると言うと青年は喜んだが、実際は付き合いのある奴隷商に売ったも同然である

世界を見て回りたいという余裕のある夢に対して社会の厳しさを教えてやるというつもりだったという

ガラクタと引き換えに大金を巻き上げた上、騙して奴隷商に売り飛ばした

野心によって良心は覆い隠され、少しも省みることなく青年のことは忘れ去ってしまっていた


「その青年のことを思い出すきっかけとなったのが、件の辻斬りの噂です」

話し疲れたのか水筒から喉を鳴らして水を飲むアウトル

心なしかその目には恐怖の色が浮かんでいるようだった


「それでもその辻斬りが道を阻む街道を行くのは何故なんだ?」

そこまで恐れているのならここを避けていればいいはず。そのまま忘れ去ってしまえばいいのだ

「野心に燃えていた私にも大切なものができたのです。帰りを待つ家族をどうして避けることができましょうか」


ヴァイラン地方へ進出したオーバ商会の中で、アウトルは新天地の支所を任されることとなった

そこで今の妻に出会ったという


「もしかしたらそれだけでなく、私は罰を受けることを望んでいるのかもしれませんな」

アウトルが乾いた笑いをこぼすのとほぼ同時に、前方を進んでいた護衛が悲鳴をあげた

PixelHeroes妄想ストーリー

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