同時に放たれた剣閃は過たずぶつかり合い、轟音と共に掻き消える
間合いから同様の技を放つと読んでいた辻斬りは、霧散した斬撃の粒子の中を駆け抜けた
居合は極限まで集中し、風よりも疾く斬撃を放つ技である。村正の溢れ出る妖力が空気を伝って離れた相手の身を切り裂くのだ。よって連発はできない
相手の負傷の状態を考えるに、第二撃を躱すのは不可能だろう
黒い騎士が立っていたはずの場所に下段から斬り上げた
が、手応えはない
斬撃から一瞬遅れて飛び散った粒子の靄と衝撃による土煙が晴れる
ほんの一歩だけ後ろに退がり刀身に気を込める騎士の姿を認めた瞬間、辻斬りは敗北と死を悟った
「諦めたな」
小さな声だった
ドラゴマンは一撃目と同じく魔力を込めた斬撃を辻斬りに叩き込んだ
あと一歩深く踏み込まれていたら命はなかっただろう
気力を振り絞って放った大技だけに、立っているのもやっとだった
しかし胸元に吊るした石はまだ休息を許してはくれないようだ
ヨタヨタと辻斬りの元へ歩み寄り、ポーチから金属製のボトルを取り出すと、蓋を捻りながら自分より少し年上の青年の顔を見やる
あの瞬間、彼は死を覚悟したのだろう。どこか安心したような表情で気を失っている
こぼさないよう注意しながら、その口にエーテルを流し込んだ
眩い光が辻斬りの体を包み込む
何度も見た光景だが、やはり不思議でならない
大陸を恐怖と絶望に叩き落とした魔獣災害を平定するほどのヒーローを生むミントの儀を、神官でもない自分が神殿でもない場所で何度も執り行っている
自分やリリアのように異形へと変異する者も今の所いない
ミントの儀とは、ミントエーテルとは、ジェネライトとは一体何なのか…
立ち上がりボトルを下げた際に数滴余っていたエーテルが辻斬りの持っていた剣、村雨にこぼれ落ちた
すると剣も辻斬りと同様に光に包まれていく
「これは…」
ジェネライトに反応し、覚醒を促すエーテルが剣に反応している
2つの光が呼応するように一度輝きを増し、そして収束を開始する
幾人もの命を奪い血を啜ってきた剣は憑き物が落ちたように神聖な空気を纏っていた
街から程近い街道で繰り広げられた戦いの痕跡は、すぐに直轄の軍によって調査が始まった
ドラゴマンはアウトルの死体に短く黙祷を捧げたあと、気を失ったままの辻斬りとその剣を抱えて一歩先に立ち去っていた
恐らく今回も辻斬りの仕業と断定されるだろう
しかし今後この街道で辻斬りが騒ぎを起こすことはない
「う…」
木漏れ日が優しく頬を撫でた
故郷での日々をふと思い出す
弟はどうしているだろうか…両親は元気でいるだろうか…
夢現の状態でうっすらと目を開ける
「よお、気がついたか」
聞き慣れない声だ
声の主を目だけ動かして探してみる
激しい戦いの後なのか、ボロボロの鎧を纏いこちらを見ている青年がいる
年齢は自分よりいくつか下だろう
「ここは…」
強ばる体がギイギイと軋む
青年がふっ、と息が漏らす
そしてこう問い返してきた
「どこから聞きたい?」
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