11.ドラゴマン②

隊舎が慌ただしくなったことに気づいたのは夏なのに少しひんやりとした雨の日だった

庭で早朝から行う基礎訓練は中止になり、屋内の演舞場に集合したくらいだったろうか

教官や事務員たちがいつになく深刻そうな顔をして忙しなく駆け回っている

俺たちはそんな大人達を放っておいて訓練を始めることにした

たいていの候補者たちは教官達のただならぬ様子に落ち着かない様子だったが、ミシェルはそんな様子が面白くて仕方ないようだった


ジメジメとした空気が肌にまとわりついて気持ち悪い

ざわざわした隊舎の様子が少し変わったかなと気づいたタイミングで、演舞場の扉が開いた

雨は激しさを増していた


大陸全土に魔物が大量に発生している

王国を含む中央の治安維持連盟各国が軍を派兵しているが、通常の武器では歯が立たないらしい

これは伝説のヒーローたちが誕生するきっかけとなった魔獣災害の時と同じ事象だった

早急にミントの儀を行い、ヒーローとして平定する必要がある

俺はこの候補隊員としての生活に満足していたので、それが終わってしまうのではないかとざわざわした気持ちになっていた


ふと横に並ぶミシェルの表情を盗み見る

先ほどまで教官達の慌てた様子に笑いを堪えていた明るい少女の表情は、決意に満ちたものに変わっていた


俺もヒーローになっちまうのか

そう考えた瞬間、思ったより悪くないなと感じている自分に気づく

先ほどと違い、自然にミシェルの方へ顔を向けると、彼女も俺を見て力強く頷くのだった

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