寒い
それより腹が減った
いや、そんなことよりも…
俺が意識を取り戻すまで出番を控えていたかのように、痛みが身体中を駆け巡った
喉もやられているのか、悲鳴にもならない空気の抜けるような湿った音が耳に障る
何でこんなことになっているんだ…?
激しい痛みに悶えながらも、不思議と冷静に思考を巡らす
しかし絶望感や怒り、空腹などの強い欲求がこの状況に対しての記憶を呼び覚ます邪魔をする
めちゃくちゃだ…どうしてこんなに痛いのに死ねないんだ…
絶望が他のすべてを呑み込む感覚に、また我を失いそうになった…その瞬間
「あれだけこっぴどくやられた割に生きているとは…よほどしぶといと見えるな…」
頬を打ち続けていた雨粒はいつの間にかやんでいて、代わりに少し楽しげな声が降ってくる
何とか目を声の方へ向けると、冷たい笑みを浮かべた一人の男がこちらを覗き込んでいた
お前は誰だ?俺はなぜこんな…
尋ねたくとも声が出ない
口をパクパクさせるだけの俺を見下ろしながら、男はクツクツと笑う
「すべて見ていたぞ。お前はヒーローにはなれなかったが、それでも力は手に入れたようだな」
意味がわからない
「お前はもうこの国には居られんだろう。俺と一緒に来い。お前の力が必要だ」
男は楽しげな声色を崩さずにそう言った。頭はまったく追いついていないが、一つだけ確かなことがある
こいつだけは、俺を憐れんではいない
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