あの日、ボロ雑巾のように捨てられていた俺を拾った男は、西側の国の一つ、ヴィランという国の王子だったらしい
ヴァイラン地方ではかなり豊かな国で、俺も当時名前くらいは聞いたことがあった
オラン山脈により分割された西側と中央の両地方の間にはほとんど交流はない
相当な戦力か、それを雇えるほどの財力がない限り人間が山脈を越えることは難しかったからだ
ヴィラン国は王子に相当な期待を寄せていたのだろう
そういった事情をおしてでもこの王国に王子を留学させたのだから
西側の壊滅の報せはあの雨の日の数日後
王子が使役する空飛ぶ使い魔によってもたらされた
女ヒーローの情報はゼロだった
ヴィリスと名乗ったヴィラン国王子はその報せに眉ひとつ動かさずに何やら難しそうな本から目を離さぬまま一言
「そうか」
とだけ呟いた
俺が少しずつ回復してくると、王子は研究のひと段落をきっかけに一足先に西側に戻ると言った
「俺はあの平和ボケした国々をまとめる。もう魔物に好き勝手はさせないさ。お前にはその手伝いをしてもらう。しかし準備が必要だ。お前にも準備が必要だろう?この部屋は自由に使ってくれて構わん。西に帝国ができたらお前も来い」
言いたいことだけ告げると、いくつかの荷物を残して王子は西側へ戻っていった
母国は壊滅し迎えを寄越す余裕はないだろう
山脈で野垂れ死ぬことがなければいいのだが…
そうして王子の隠れ家で傷が癒えるまで過ごし、あまり期待しないまま出国の準備をした
どちらにせよこんな暮らしを続けるわけにもいかないから、国は出ることになる
当てがあるかないかの違いでしかないのだ
1年後、ヴィランズ帝国が正式に建国されたという報せが届いた
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