20.獄炎に魅入られし者①

大陸を縦断するオラン山脈から南に連なる、獣の森

コントラ国王と神官長エンジャーニャの祖先によって恐ろしい獣が討伐された神話の地である

コントラクト王国の子どもたちは小さい頃にふたりの冒険譚を聞いて育ち、そして恐怖する

それは、この森などの危険な場所に子どもたちを近づかせないようにするという昔からの知恵でもあった


欲望に取り憑かれた大人は、時に幼い子どもよりも愚かである

強大な力を持つ獣の伝説は広く知れ渡っており、後の権力者達により王国の権威を示す意味でも壮大な冒険譚に整えられている

その真実を知る者はもういない


昔話に出てくる村は、現在の森の中である

獣の死骸が周りの環境に影響を及ぼし、一帯の村や農地は急速に成長した森に飲み込まれてしまったという


しかしそんないわくのある土地にはあれやこれやと背鰭尾鰭がつくものである

曰く”獣の死骸は今も腐らずに残っており、その死骸には強大な力の源となる妖気が今も漏れ出している。それが初代ヒーロー時代に獣を魔獣に変え、魔物の発生を促した

溢れ出る妖気は土に染み込み植物の生態を変え、岩に染み込み性質を変えた

獣の鱗は魔力を帯びた鎧や盾に、角は武器に、骨は煎じて長寿の秘薬に

眼球は宝石のように妖しく輝き、内臓は龍をも殺す猛毒となる

そのどれもが現存するどんな素材よりも極上の品質を備えているらしい”


そんな童話を本気にして数々の欲望に目が眩んだ者たちが森に探索へいくが、誰一人として帰った者はいない

死体も見つからず行方不明として処理されてしまうので、あまり大きく話題になることはなかった

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