29.呪いの器⑤

ドラゴマンの一行は獣の森へ向けて歩いていた

両親と最期の言葉も交わすことのできなかったこの小さな少女は、専用に用意された小さめの馬車の中で寝息を立てている


街の門と森の中間に差し掛かった時、ドラゴマンが馬車の荷台をコンコンとノックした

周りの仲間はその光景を不思議そうに眺める

反応がないことを確認し、もう一度ノックしながら声をかけた

「おーい坊主。別に怒りはしねえよ。狭くてガタガタして痛えだろ?出てこいよ」


仲間達がギョッとして顔を見合わせていると、荷台の蓋が内側から開き、幼い少年が顔を出した

昨日の少年だ

「信用できなかったからってついてくる根性は大したもんだ」

頭をボリボリと掻きながら瓶を放る

受け取った瓶を訝しげに見つめる少年に苦笑いしながら説明する

「ただの水だ。ミントエーテルなんてぽんぽん出せねえよ」


「ここか…噂の森ってのは」

一行は森の入り口にたどり着いていた

少年はギョッとした顔でドラゴマンを見る

「安心しな、獣の野郎には今日は用はねえよ」

ドラゴマンは苦笑気味に答えたあと、入り口に再度目を向けた

「やっぱりか。獣道じゃねえな」


ドラゴマンは仲間を一人だけ連れて奥へ進んでいた

少女の乗った馬車と少年、それと残りの仲間たちは入り口で待機だ

森にさえ入らなければ少女に影響はない。そう魔女から聞いている

それよりも、もう一つの森の噂を確かめないといけない


噂というのはこの森に現れるというマグマのような男

数年前、特殊な素材を手に入れようと森に入り、そいつと遭遇して命からがら逃げ帰ってきた商人がいた

商人がいうには、そいつは岩石を身に纏った大男で、炎も操るという

我を忘れて森の中を徘徊しており、森に侵入した生き物を本能のままに殺戮する

同行していた石工に気を取られている隙に逃げてきたらしい


おそらくそいつも獣の呪いにあてられた被害者だろう

あいつの予測が正しければ、その男も…


商人の話では数刻ほどで広場にたどり着くとのことだったのだが、体感ではとっくに経っているはずだ

進む道はほとんど景色に変化がない

太陽は鬱蒼とした木々に邪魔されて姿を拝むことはできなかった


「またハズレか…」

ため息混じりに頭をボリボリと掻き、仲間に引き換えそうと伝えようとした刹那

殺気を感じて飛び退がりざまに剣を抜くと、強い衝撃が全身を襲った


仲間はもろに食らったのか、来た道の方で転がっている

俺はというと…よし。当たりどころは悪くない。そう判断して口元の血を拭う

そいつからの攻撃を牽制しながら仲間に呼びかけると、幸いむくりと起き上がって頷いてくる


思ったより強い。2人じゃたぶん勝てないので、入り口まで誘き寄せて囲んで倒す

それが作戦だった

子供たちを危険な目に合わせてしまうが…仕方ない。これからの道のりを考えると荒事には慣れてもらわないとな

自嘲気味に笑うと、爆炎岩石野郎の攻撃をすんでにかわしながら、ドラゴマンたちは入り口に向かっていった



「もうすぐだ!」

先行していた仲間が声をあげる

行く先が明るくなる

安堵に足を緩めたくなる自分を叱咤して仲間の背中を追う

そしてその背中にたった今までついていた首が、飛んだ


やっとの思いで走り出た森の外は、まるで地獄絵図だった

血や内臓が散乱し、赤黒い地面

完全に破壊された馬車

立っているのは一人だけ

鎧のように見えるのは逆立った毛だろう

肉食獣のような目と、血で汚れた顔のした半分

全てを理解した

最悪だ

「へっへっ」

絶望のあまり笑い声を漏らした瞬間、左に殺気

身を固くして衝撃に備えると、素直すぎるコースで横薙ぎにふっとばされた

忘れてたわけじゃないぞ?


前門の虎と後門の爆炎岩石野郎

最悪のフルコースだ

PixelHeroes妄想ストーリー

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