たった一日足らず一緒にいただけだったが、ドラゴマンは少年を丁重に葬った
とはいえバラバラになった肉片を誰の者か判別することはできない
他の仲間達と同様、衣服や装備を埋めて、適当な大きさの石を墓標とした
彼の両親に会ったことはない。何かを約束したわけではない。これからも会うことはない
少年の家族が真実を知ることはないだろう
ドラゴマンは胸の痛みから目を背けるように、黙祷を捧げた
光が体の中に収束していくと、今まで全身を覆っていた岩は姿を潜めていた
少女もそうだったが、ミントエーテルによって表層にある症状を抑えられるようになったのだろう
少女は先ほど目を覚まし、仲間が状況を説明している
あれほど凶悪に暴れていた虎娘と同じ人間とはいまだに信じられないほど大人しい、年相応の少女だ
自分の手が友人を手にかけたと知ったら、一生消えない傷を抱えることになる
獣に魅入られたせいでそんなことになってしまうのはあまりに哀れだろう
こちらの視線に気づいた少女はこちらへ歩いてきて、ぺこっと頭を下げながら礼を言った
「助けてもらったって聞きました。ありがとうございます」
緊張しているようだが、当然だろう。少しでも緊張が解けるようにと、笑い返しておいた
両親と少年とした約束。この少女は護り通さねばならない
「う…」
岩人形だった石工が痛みに堪えるように呻き声をあげ、上体を起こした
先ほどは気づかなかったが、目が宝石のように赤い
まるで本物の宝石を眼球に埋め込んだようだ
状況が飲み込めない様子で辺りを見回す石工に話しかけた
「そうか…あれからそんなに月日が経ったのか…俺は…」
頭を抱え言葉に詰まる石工
「なんであんたは…その…あんな姿になっちまったんだ?」
ドラゴマンの問いかけに、一瞬ニヤけたような表情が浮かび、すぐに苦悶の表情に変わる
ドラゴマンはその変化を心に留め置き、無言で石工が語り始めるのを待った
曰く、大規模な護衛隊を伴った商隊は、目的の岩を探して3日ほど森の中を歩き回った
同じような景色が続き、護衛隊の中には怯え出す者も居たという
魔獣や野獣にこそ出くわさなかったものの、すぐ近くで聞いたこともないような動物や鳥が鳴いている
暗い森の中で、迷っているのではないか?見たこともないような魔獣に襲われるかもしれない…などの不安に苛まれながら歩くのは予想以上に精神が病む
ノイローゼ気味になり休憩の回数を増やしても、彼らの心はどんどん蝕まれていった
そして探索を諦めかけたその瞬間、目の前に大きく開けた場所が現れた
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