オラン山脈

少女の名はアムというらしい

ランジュは先輩を気取ってあれやこれやと世話を焼いているが、反応は薄い

隠れていたとは言え、目の前で家族や村の知り合いが皆殺しにされたのだ

ランジュが一生懸命にアムに話しかけている様子をぼーっと眺めていると、スミスが横に並んできた

「あの子も帝国へ連れて行くのか」

「身寄りがないあの子を放っておくわけにもいかないだろ。それに俺たちが頼るのは皇帝陛下だ。今までよりもいい暮らしができて復讐のことなんてさらっと忘れてくれるさ」

何故か咎められたような気分になり、説明が少し言い訳がましくなってしまった


ここはオラン山脈

神話の時代に勇者アルパたちが封印したという伝説の獣が元々棲んでいたとされている場所

西側のイーサ地方と中央のポリゴニアの間でほとんど交流が無いのは、何も険しい山道だけが原因ではない

人間がほとんど足を踏み入れないこの地は、魔獣や魔物の格好の棲家となっている

ドラゴマンが少しばかり魔法の心得があるとは言え、近接戦闘に偏ったパーティでは若干心許ない

本来であれば護衛を少しずつ増やしキャラバンで山越えをしたかったのである


責めるつもりは毛頭ないが、少しだけ恨みがましい目でランジュを見てしまった

こちらの視線に気づいたのか、アムを見守る視線を少し誇らしげな顔に変えてこちらを見た

そんな様子が居た堪れず、スミスの方に向き直って言う

「それにしても奇妙な声は聞こえるが、襲いかかってくる気配はないな」

スミスは少し考え込む

「…俺とランジュは獣の力を得ているだろう。奴がここら一帯のボスだったとしたら、逆らってこないのは自然だ」

「なるほどな…」

スミスの尤もらしい仮説に納得し、再び前を向いたその時だった


ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ン!!!!!

野太いのに不愉快なほど高い咆哮

首の後ろがザワザワする感覚

距離はおそらく遠いはずだが、本能が発する危険信号はスミスやランジュが暴走した時よりもドラゴマンの身を縮めさせた


「こいつもお前らの言うこと、聞いてくれると思うか?」

「無論、否だ」

必死に絞り出した冗談を真顔で否定したスミスの表情も緊張で強張っている

「ランジュちゃん…!」

アムの焦ったような声に後ろを振り向く。少女たちは剣士と魔法使いの二人が後ろから守っているはずだった

フーッフーッと興奮したように息を荒げるランジュ。怒りの形相に目も大きく見開かれている

アムは最後尾の二人に庇われランジュとは距離をとっていた

「ドラゴマン…獣の力があの声に反応しているようだ…」

振り向くとスミスの目も赤い宝石に変わりかけている


(2人が暴走したら俺たち4人は終わる…!)

ヴィリスが残していってくれたミントエーテルはスミスとランジュに使った分で底をついていた

あの時はエーテルが感情に作用するジェネライトに反応したことで止めることができたが、儀式を通していなかった2人は感情の昂りで暴走する危険性を残していたのだ

ヴィリスにミントの儀について聞いていて知ってはいたが、普段の様子から完全に油断してしまっていた…


おまけにあの声の主だ

伝説の獣がどの程度なのかは知らないが、あいつもあいつで相当にやばい

通常時では束になっても敵わないかもしれない…


(せっかくヴィリスに拾われたこの命…そして俺が拾った3つの命…みすみす無駄にしてなるものかよ…)

ドラゴマンは腰に差した2本の剣に手を添えて呼吸を整える

ひとつひとつ対処するしかない


「ランジュ、アム、スミス、よく聞け」

大きく息を吸い、ドラゴマンはあの時のようによく通る声で仲間たちに呼びかけた



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