山の獣

ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ

奴が再び咆哮する

おそらくこちらの獣の気配に気づき挑発しているのだろう

猿山のボス争いに付き合っている暇はない

西側に渡るまでは早くて数日。ランジュとスミスの暴走が先かもしれない


「奴らの縄張りである道中で襲われたら勝ち目はないだろう。」

ドラゴマンに呼ばれて集まっていた全員に説明を始める

「どうせ数日かかる山道だ。少しくらい寄り道したって大して変わらないだろう」

意味深げに片方の口角をあげて見回す。不敵な態度をとることで、ひとまずアムとランジュを安心させてやらねば


ドラゴマンの作戦はこうだ

どうせもうすぐ日が暮れる

キャンプが設営できる程度の広場を見つけ、迎え撃つ

スミスに少しずつ力を解放してもらい誘き寄せる作戦だ

奴の挑発に一定の効果がある以上、こちらからの挑発にも効果は期待できるはず


スミスはあれから力のコントロールするために訓練している

先日模擬戦に付き合った際にどの程度までコントロールできるようになったのかは把握していた

アムとランジュ以外の全員でかかれば、ある程度の強い奴でも罠にかけるくらいならできるだろう


「それで、罠っていうのは?」

魔法使いが尋ねる

「なんてことはないさ」

不敵な笑みを崩さずドラゴマンが示したものに、興奮していたはずのランジュさえぽかんとした顔を浮かべた

「アムは任せたぞ、おねえちゃん」

呆れ顔の彼らをよそに、ドラゴマンは慣れないウィンクをランジュに送った



ーーーーー本能が警告している

奴らは強い。先代のボスを食い殺し、この山のボスの座に君臨してからどのくらいの時が経っただろう

時たま昔の記憶が過りそうになるが、その度に頭にモヤがかかって眠くなってしまう

彼が道を通ればこの山のどんな魔獣も道をあける

矮小な獲物を一方的に狩る

この山で傍若無人な振る舞いを許されているのは、ボスである彼だけのはずだった


数日前、おかしな匂いが山の中に入ってきた

懐かしいようでいて、胸を掻きむしるほど憎い

生きるための狩りでも、楽しむための狩りでもない

明確な殺意をはっきりと認識したのはおそらく生まれて初めてだろう…いや…違う

そんなことはどうでもいい

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い


気づけば彼は山全体を威嚇するように昂った心を全て乗せ、本能のままに咆哮した

(今すぐに殺してやる)

その殺意は頭の中ではっきり言葉として形を成した



ーーーー翌朝

咆哮の距離と方角からしてまだ時間に余裕はある

そう判断してキャンプを張ったドラゴマンたちを、魔獣や咆哮の主が襲うことはなかった


全力で向かってきていても邂逅するのは明日か、早くて今日の夕方だろう

オランは大陸を縦断する山脈だ

大小さまざまな山をまとめてオラン山脈と呼んでいる

おそらく奴は違う山からこちらを察知したのだろう

いずれにしても恐ろしい鼻だ

こちらの場所は常に把握されていると考えていい


距離を稼ぐのは二の次にして、迎え撃つのに手頃な広場を見つけるのが優先だ

歩くスピードを落として、その分辺りを見回しながら彼らは進んだ


緊張感で疲れてしまったのだろう、入山時の元気はすっかり空になってしまったランジュはぐったりと肩を落とし歩いていた

目を覚ました時は周囲が大変なことになっていたので、恩人であるらしいドラゴマンたちに遠慮していた

だんだん慣れてきたなと思った矢先にアムという妹分が入ってきた

ランジュは駄々をこねてその場に座り込みたいという欲求を抑え込みながらも、重い足を進めるのに苦心していた


(喉渇いたな…)

ランジュはため息でわがままを掻き消したが、急激に感度が増した耳にとても恋しい音を捉え立ち止まった

「どうしたランジュ?何か聞こえるのか!?」

「川!川の音!」

剣士のおじさんが焦った様子で早口で聞いてくるので、それに釣られてランジュも早口で理由を伝えた


「川か…そこで一旦休憩にしよう。開けているようなら今日はそこにキャンプを張る。迎え撃つのもそこでだな」

心なしかほっとしたような声でドラゴマンが皆に告げる


川辺に着いたのは正午を少し過ぎたくらいの頃だった

たどり着いた場所は理想通りに開けており、傾斜も緩やかな場所だ

「昔から悪運だけは強いんだよな…」

罠を仕掛けるのに最適な環境が整ったのは不幸中の幸いである

少しばかりの休息をとったあと、彼らは獣を迎え撃つ準備を始めたのだった







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