獣、迎撃

獣は夜通し走り続けた

危険な敵だ、このまま生かしておいては獣の頭領としての地位が危ない

本能が初めて認定した明確な敵

圧倒的な強さを誇る獣にとってそれは一種の喜びに似た感情も同時に呼び起こした


太陽が高く昇っている

普段明るい内はどうにも力が出ず、行動するのはほぼ夜間だ

しかし今は一刻も早く奴らを排除しなければならないし、おそらく初めてと言っていい強敵との戦いだ


狩りはただの食事だ

戦いとはまったく違う

食欲を満たすのではなく、衝動を満たすのだ

走れ、走れ、走れ、走れ



落ち着いていたはずのランジュが背中を丸め、耳と尻尾をピンと立てた

それを合図にドラゴマンと剣士が頷き合う


その時だった

ものすごい速さで何かが通り過ぎたあと、一瞬遅れて風が彼らを襲う

急いでランジュの方を見るとさっきまでいたはずの場所に彼女の姿はなかった


「チッ…」

急いで先ほど過ぎ去った何かの方を向く

黒い獣だった

姿は狼に似ているが、四足歩行の獣にしてはバランスがおかしい

よく見れば下半身は極限まで鍛えられた人間のようである

ランジュが爪を立ててぶら下がっていることには一切注意を払わず、ゆっくりと立ち上がる

下半身にも増して太い上半身をもたげるように前屈みに立つその姿をなんと表現したものか…


「ランジュ、もういい、戻れ!」

ドラゴマンが呼びかけるとランジュは目を赤く光らせたまま飛び退りこちらへ並んだ

彼女も思いのほか獣化をコントロールできているらしい。大したものだ


獣は口角を奇妙に引き上げる

「笑ってやがるな…」

剣士が汗だくのまま呆れて笑う

みんな思ったより余裕があるようだ

このまま笑顔で去っていってくれないかと真剣に思ったが、当然そんなことはなく獣はランジュ目掛けて走り寄ってきた


「やっぱりそっちが狙いかよ!」

庇うように間に入り、獣の爪と牙を2本の剣で受ける

あまりの勢いと力で踏ん張ることができずに押し返されると、ドラゴマンの肩を踏み台にしてランジュが飛び上がった


上に移動したランジュに気を取られた獣の腹に横薙ぎで一太刀くれてやるが、手応えは浅い

しかし傷を負わせたことでドラゴマンの役目は半分終えたも同然だった


「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

ランジュが叫びながら降下する

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

獣も負けじと口をいっぱいに広げ答える

その時だった

獣の口が火を吹いて爆発する

アムを連れて隠れていた魔法使いが爆裂魔法を口に向けて叩き込んだのだ

胸を逸らしてランジュを迎え撃とうとしていた獣はそのまま後ろに仰反る

右手に持った剣を翳して合図を送ると、ドラゴマンは隠し持っていた巻物を使用して火遁の術をガラ空きの胸元に炸裂させる

堪らず数歩後退した獣に、勢いをつけてスミスが走っていく

炎を纏った右腕を横に突き出し、通り過ぎざまに上半身を捻り振り抜いたのだ


スミスの剛腕に吹き飛ばされた獣は川の中に落下した

大きな飛沫を上げたが、当然あの程度で死ぬことはないだろう

今度は川で爆発が起こる

川を堰き止めておいた岩を爆破したのだ

ヴィリスから預かった火薬と爆裂魔法で一番大きな岩が粉々に砕け散った

堰き止められていた水が一気に流れ出し、起き上がりかけていた獣を押し流す

魔法使いがありったけの魔力で爆裂魔法を連発した


しばらく警戒していたが、どうやら無事押し流すことができたらしい


ドラゴマンが説明した罠はニンジュツというものに使う巻物と、大豆程度の大きさの火薬が数粒

他の仲間たちは巻物も火薬も知らず、呆気に取られたらしかった


ヴィリスが置いていってくれた荷物は不思議なものばかりだ

西側はドラゴマンたちが知りもしない技術がたくさんあるのだろう


ドラゴマンたちは急いで先に進むことにした

押し流しただけで殺せてはいないだろう

気を失っている隙に少しでも時間を稼ぐのだ


PixelHeroes妄想ストーリー

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