ドラゴマンたちは獣たちとの戦いを経てくたくたに疲れてはいたが、また襲われるよりはましだと夜通し歩き続けた
アムはさすがに生身なのでスミスが担いでいる
まるで親子のようでその光景が少しだけ疲れを癒してくれるような気がする
時たまランジュやスミスが強ばった表情で後ろを振り返っている
もしかすると獣が追ってきているのかもしれない
下山の道もだいぶなだらかになってきた
出口がおそらく近いのだろう
ヴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!
安心しかけた瞬間、懐かしくもないあの咆哮が聞こえた
「チッ…何てしつこい奴なんだよ…!」
自然と全員の足が速まる
クタクタの足さえ恐怖に突き動かされているらしい
ヴォオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
さっきよりも近い
間違いなく近づいてきている
次に会ったら間違いなく、どちらかが死ぬまで戦うはめになるだろう
そして、転がるようにして傾斜を下りきり、下山を果たした
地続きに見えるが、境界を越えた瞬間に雰囲気が変わったのだ
ヴァアアアアアアアアアアアァァ……ッ…デエエエエエエエエエッッ!!!!
最後に聞こえたその咆哮は、今までのものよりもよりはっきりと憎悪が篭っている
しかし、薄い膜を通したように少しだけ遠く聞こえたような気がした
そのまま彼らがへたり込んでいると、
「山を越えていらっしゃったのですか?」
唐突に聞こえた若い男の声で、心臓が縮み上がった
「驚かせてしまって申し訳ない、私はこの森に住む者です。あなた方のような少人数で山を越えて来られるのはとても珍しいので…奴の叫びもここまで近いのは久しぶりです」
ローブを纏ったその男は、柔和な笑顔でフードを取りながら続ける
「奴の声…久しぶり?」
ドラゴマンが動揺を悟られぬように息を整えながら問い返す
「その通りです。奴は山の新しい主。とはいっても奴がこの山の主になったのは私が生まれるずっと前のことですが」
とびきりの冗談を言うように笑顔で答えると、男は続ける
「ご安心ください。奴はこの森に入ることはできません。自然と共に生きる者同士、棲み分けは大切なことなのです」
「結界、か?」
閃いたように魔法使いが聞くと、男はにっこりと笑うだけにとどめた。肯定したと見てよさそうだ
「さあ、山越えはさぞ大変だったことでしょう。我らが主人の館があります。一晩ゆっくりと休まれるといいですよ」
そういうと、男は踵を返して歩き始めてしまった
こんな森の中に住んでいる…?主人?館?
俄には信じられない展開に目を白黒させていると、いつも冷静なスミスが座り込んでいるドラゴマンの前に立ち、言った
「ここで夜を明かすわけにもいかんだろう。信用したわけでもないが、雨風をしのげて食事にもありつけるかもしれん。行くだけ行ってみよう」
正論である
アムの腹の虫が急かすように鳴ると、全員少しだけ元気を取り戻し立ち上がった
「ランジュ、随分静かじゃないか。疲れたか?頑張ったもんな」
疲れからかアムをスミスに取られて拗ねているのか、いつもより静かだったランジュが気になってドラゴマンは声をかけたが、ランジュは青ざめた顔で何度も振り返りながらこう答えた
「ねえ…あいつの最後の…待てって言ってるように聞こえなかった…?」
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