パラッチで買い出しついでに帝国領への道のりを聞いて回った
数日も歩けば帝国領へ着くという。馬車なら明日には着く
ヴィリスが残してくれたものとランジュの両親が持たせてくれた路銀を合わせればその程度であれば何とかなりそうだ
アムには今の時点でも相当にきつい旅だろう
気が張っているのもあって気丈に振る舞えてはいるが、何かあったら一気に体調を崩すかもしれない
「最後くらい楽してみるかあ」
ドラゴマンが財布から顔を上げて言うと、アムとランジュは抱き合って喜んだ
やはり相当に無理をしていたらしい
スミスは温和な笑顔で少女たちを眺めている
あんなにつらいことを経験してきた奴らとは思えないな…
そんなことを考えながら、ドラゴマンは御者に金を渡した
馬車での旅路は今までのことが嘘だったかのように順調に進んだ
戦い詰めの歩き詰めだった上に初めてだろう野宿続きだのだ
客車のガタガタとした揺れの中でも少女たちは仲良く眠りこくっていた
むしろ眠れたらどんなによかったか…ドラゴマンは道中吐き気と戦い続けていた
そして
一行はついに目指していた帝国へと辿り着いた
パラッチは西側最大級の宗教国家であり、宿場町から発展した商国家でもあったので、雑多なイメージだったが、帝国の趣の違う建築物、住民の衣服が、ドラゴマンに初めて西側に来たのだと感じさせた
ヴィリス皇帝にはどうやって謁見したらいいのか…考えずにここまで来てしまったが
とりあえず城門へ向かってみる
馬車を借りた分、宿屋に泊まる路銀はもう残っていない
何とか城で面倒を見てもらわなくては…
無表情で門の両脇に立つ守衛に、ヴィリス皇帝の友人である旨、そして謁見を希望したいという旨を伝えると、怪訝そうな顔をして左側の守衛が詰め所の方へ走っていった
数分の間、どのくらいかかるのかなどと話していると、先ほどの守衛が20人ほどの仲間を引き連れて戻ってくる
「皇帝陛下のご友人が事前の根回しもなく直接歩いて訪ねて来られるわけがなかろう」
呆れたように守衛たちのリーダーらしき男が言い放つ
「これ以上虚偽の理由で城内に立ち入ろうとするならば、不敬罪でこの場で首を斬り落とす」
いたずらを咎めるような口ぶりで腰の剣を抜き、馬鹿にしたように威嚇をしてくる守衛のリーダーに、ドラゴマンは殺気を込めて質問で質問に返した
「お前が?俺の?何をどうするって?」
あまりの殺気に守衛隊の半数が後ずさる
スミスが呆れながらドラゴマンを止めようとしたその時、上空から甲高い不気味な声が降ってきた
「これはこれはドラゴマン殿お久しゅうございます。やっといらしたのでございますね。陛下も首を長くしてお待ちしていたのですよ」
その声は、ヴィリスが使役していた使い魔のものだった
不気味なその声の響にうえっと顔を歪めるランジュ、怯えるアム、静かに警戒するスミス
「よお暫く、お前んとこの部下が俺の首をどうにかするって言って通してくれないんだ」
片手を軽く上げ不気味な使い魔に挨拶をするドラゴマンを見ると、仲間は安心したような表情を浮かべ、守衛達は顔面の色を失った
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