守衛達の無礼については不問にしてやってほしいとヴィリスの使い魔であるネビュロに伝えた
自身の計画性のなさで他人を巻き込むのは寝覚が悪い。何より彼らは自分たちの仕事を全うしようとしただけなのだ
「ホッホッホ…ドラゴマン殿は心が広いお方なのですな」
顔の周りを飛び回りながら甲高い声で褒められても鬱陶しく感じるだけであったが、これから世話になる場所でそれなりの地位に就く者だ。表情には出さずに対応する
尤も、ランジュの顔は手遅れだったが…
「それにしてもずいぶんくたびれていらっしゃいますなァ…それにお連れの皆さまも…ずいぶんと…珍しい…」
ネビュロも一応気を遣っているのかもしれない。ランジュやアムには怖がられる可能性を考えて、興味の対象をスミスに絞ったようだ
「ここにくるまでいろいろあってな…大変だったんだよ。お前たちが思ってるよりも」
ドラゴマンはため息を吐きながら愚痴っぽく言うと、何かを忘れているような、そんな感覚が引っかかった
「さすがはドラゴマン殿です。まだ拝命してもいない役割をさっそくこなされるとは…」
満足気に言いながらスミスの顔の周りをブンブンと飛び回るネビュラの言葉を繰り返す
「役割?」
「左様でございます。詳しくは、明日の謁見の時に陛下直々に下されるでしょう」
ネビューロが恭しく体を傾け礼のような動作をする
眼球に翼が生えたような見た目のネビューロは体全体で礼をするのだ
「では明日の謁見のお時間までこちらの大部屋はご自由になさってください。陛下からこの客間の使用をお許し頂いていますので……それよりも…」
ネビューロが振り向き様にこちらを一瞥して言葉を止めた
「何だよ」
言い草に引っかかり、食い下がってみる
「…いえ、気のせいかもしれませんので。では、また明朝伺います」
ネビューロの態度は気がかりだったが、今はとりあえず久しぶりの安全な寝床を存分に楽しみたかった
通された客間には寝台が4つ。しかし人間用のサイズなのでスミスには小さすぎたようだ
ドラゴマンがメイドを呼ぼうとするとスミスは手をあげてそれを制止し言った
「体が岩なんだ。せっかくの高級そうなシーツを寝ている間に破ってしまってもいかん。俺はそこでいい。」
スミスが顎で示したのは入口近くの床だった。広さ的には十分だが、おそらくは見張りのつもりなのだろう
信用できないのは無理もない。初めて西側に渡り、入ったこともない宮殿に通され、見たことのない生き物が礼儀正しく人語を話したのだ。旅の後でなくても疲れ果てる
現にランジュとアムは一番奥のベッドでスヤスヤと寝息を立てていた
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