ーーーまたこの夢だ
アムは早々にいつもの悪夢に堕ちたことに気づいた
村の入口で村長や村の大人達が鎧を着た集団と話している
アムの住んでいた村はポリゴネア地域の中では異質で、中央正教会ではなくこの地に棲むとされているドラゴンが信仰の対象だった
財宝を奪い人を食うと言われるドラゴンだが、この地に伝わるドラゴンは土地の守り神として様々な伝説を残している
そんなこの村を危険視した教会が神殿を建てようと何度も遣いを寄越していたが、結局村に神殿が建つことはなかった
「ヒーローまで寄越すなんて…王国はそんなに財宝が欲しいのか…?」
そう頭を抱える父の姿がアムの頭から離れない
村の伝説ではオラン山脈の一角、龍角山に棲んでいるとされているドラゴンだが、その実ここ数百年ドラゴンの姿を見た者はいない
オラン山の神話の獣からも龍角山に棲むことを黙認され、獣から村を守っていたと言われている
邪竜との戦いのエピソードは村の子供達に大人気で、紙芝居などアムも飽きることなく楽しんでいた
中央諸国に数えられるこの村も、15歳になるとミントの儀を経て元服を果たす
ヒーローもまた、子供達から人気だった
初めて見るヒーローをもっと近くで見ようと、アムは大人達がヒーローズとやりとりしている辺りまで近づいてみる
「ーーー財宝がーーーー退治してーーーー被害をーーー邪悪なーーーー」
よく聞こえずもう少し近づこうとしたその時、体が宙に浮くのを感じた
「こらアム、おじさんたちは大事な話をしてるんだ!あっちで遊んできなさい!」
隣のおじさんにいつもより少しだけ強めの語気で叱られ、ぽいっと広場の方へ放り投げられる
眠るたびに何度も見聞きした光景だ結末は知っている
しかし夢の中のアムはぷくっと頬を膨らまして山の麓の洞窟に向かった
魔獣災害によるヒーローたちと魔獣との戦いは熾烈を極めた
地形が変わってしまった場所も多いという
その洞窟はその戦いで現れた、大人たちにも子供たちにも知られていない、アムだけの秘密の場所だった
「ラーミア!」
アムが呼びかけるとラーミアと呼ばれた子龍が嬉しそうに鳴き声をあげる
「ラーミア、今ね、村にヒーローたちが来てるんだよ!ドラゴン様を探してるみたいなの。ラーミアは知ってる?」
アムはもう知っていた
何度も何度も繰り返し見た
ジニアは伝説のドラゴンのこどもなのだろう
人語をまだ理解できていないジニアはアムの問いかけには答えずじゃれついてくる
そう、アムがここに来たせいで、ジニアに会いにきてしまったせいで
あの悲劇は起こったのかもしれない……
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