自分の悪運が許せないくらいだった
ヒーローたちは父の首を刎ね、アムに気付かぬままジニアのいる洞窟の方へ向かっていく
夢をみているアムは、首のない父親の下で気を失う当時の自分を客観的に見下ろして、ため息を吐く
そして見たくもない、思い出したくもないのに続きを見せられるのだ
ヒーロー達は意気揚々と進む
まるで父や村人達をドラゴン退治の前菜として楽しんでいるようだった
アムを抱き止めるのに立ち止まった父親を除く数名は必死に逃げていたが、間もなく捕まり、殺される
そして洞窟に到着したヒーローたちは、遠慮もなくズカズカと入っていくのだ
何度も何度も見た光景だ
ジニアは必死に抵抗するが、笑いながら嬲るヒーローたち
やがてかろうじて胸を上下するだけになった小さな友達を麻の袋に放り込み、洞窟の中のジニアの宝物を物色する
ーーー触るな!お前達が触っていいものじゃない!
必死に叫ぶが、これは変えられない過去
奴らにアムの叫びが届くことはない
「ガラス片に小さな石ころ…ガラクタばっかりですねえ…」
先ほどのフェアリーを肩に乗せた禿頭がポイっと宝石を放り投げる
「仕方ないだろう、見たところまだ小龍だ。本当は伝説の龍が隠した財宝でも見つかると思ってたんだが期待外れだったな…」
「まあ、その小龍は高く売れそうだよ。大した労力はかかってないんだ、十分な戦果なんじゃない?」
獅子の兜をかぶったヒーローの不機嫌そうな言葉に、赤い鎧が気の抜けた声で答える
目の前で父の首を刎ね、友達であるジニアを嬲り、おそらく村もひどいことになっているだろう
憎しみが思考を満たしていく
「もう十分だ、そろそろずらかるぞ」
その声をきっかけに、ヒーロー達が馬車に乗って帰っていく場面に切り替わった
アムは立ち尽くす
家は焼け、見知った村人が手足を欠いて倒れている
中には父のように首を斬られ誰の死体か判別できないものまであった
アムの家も同様に荒らされ、いい匂いのする鍋の蓋を開けると、優しかった母の顔が浮いていた
この世の全ての絶望を詰め込んだような悪夢
この夢はいったいいつまで続くのだろうか
叫ぶことも諦めた
救われることも諦めた
ーーーーーもう、私は
「おい、アム、ランジュ、起きろ。寝癖のまま皇帝陛下に謁見するつもりか?」
血と夕焼けの赤い視界が一瞬真っ暗になり、心地のいい日差しが頬を撫でる
顔を横に向けると鎧を脱ぎシンプルな服装に着替えたドラゴマンが壁にもたれて不機嫌そうにこちらを見ている
ランジュはウウーッと唸っているが、これは寝起きのいつもの癖だ
天井に向き直り、さりげなく顔を触って確かめる
「さっさと起きて顔を洗ってこい。朝食のいい匂いがする」
太くて低くて心地のいい、スミスの声が少し遠くから届く
アムは起き上がり、「おはようございます」と笑顔を浮かべる
涙は出ていなかった
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