謁見①

ヴィランズ帝国

謁見の間にはあの頃と見違えるようなヴィリスの荘厳な姿があった

「久しいな、ドラゴマン」

玉座に膝を組み、頬杖をしながらヴィリスから話しかける。声と口調だけはあの頃と同じだったことに、少しだけ緊張していたドラゴマンはひそかに安堵する

外せ、と家臣たちに命じると、待機していた家臣や護衛の兵士がざわつく。ネビュロが家臣の1人にフヨフヨと近づき何やら話しかけると、ぴたっと態度を変えた彼らは恭しく一礼し素直に部屋から出て行った

部屋に残ったのはドラゴマンたちとヴィリス、そしてヴィリスの座る玉座にとまるネビュロのみ


「ご無沙汰しております、皇帝陛下。あの頃のお約束、果たすために馳せ参じました」

「堅苦しい言葉遣いはやめてくれよ。お前もそんな柄じゃないだろう。それに、呼び立てしたのは私だ」

ふっと控えめに吹き出しながらヴィリスが続ける

「それにしてもずいぶん面白い友達ができたみたいじゃないか?」

ドラゴマンがひざまづく後ろに横一列に並んだ旅の仲間達を面白そうに眺めるヴィリス

「いろいろありまして…」

説明に困り言葉に詰まるドラゴマンに顎で続きを促す。状況が状況だったとはいえ、ヴィリスの庇護を頼ってきているのだ。家臣に無礼を咎められない程度に言葉を崩して、それとなく匂わせながら旅で起こったことを手短に話した


「オランの獣の呪いを受けて我を失ったか…それでこの気か。それなりに戦えるようだな…素晴らしい」

ヴィリスは特にミントエーテルの作用について興味深げに聞いていた

「お前と同じく、ミントエーテルが暴走したジェネライトに何かしらの効果をもたらしたのだろう。あれから研究も進んでいる。お前のおかげでな」

「研究…ミントの葉をそんなに大量に持ち出せたんですか?」

王国の権威を構成するもののひとつ、大神樹ミント。その葉はかなり希少なはずだ

1から研究するのに必要な量は相当だろう…

「中央の民は知らんのだったな。王国が歴史から消し去った本当の神話」

そこまで言ってヴィリスは目を閉じる

「大神樹は、西側にも存在するんだよ」

ふいに続いた言葉にドラゴマンたちは驚愕する

ーー正確にはアム以外の3人だが


「少女よ、お前は驚かんのだな」

「私の住んでいた村ではドラゴン様がみんなにとっての神様でした。ドラゴン様の伝説には大神樹の何本かのお話が出てきます」

堂々とした態度でアムが答える

「ふむ…大陸神話の龍か。やはり…」

そう言ってヴィリスが自分の世界に入り込んでしまうと、手持ち無沙汰で辺りを見回していたドラゴマンはネビュロがチラチラとアムを見ていることに気づいた

ネビュロがドラゴマンの視線に気づくと、おほんと咳払いをしてヴィリスを現実に引き戻す


「お前の旅の話が興味深くてな、本題を忘れるところだったよ」

そう言いながら傍の箱から小さな鎖を取り出す。先端に黒い石のようなものがぶら下がっており、薄ぼんやりと光っているようにも見えるが、ここからではよく見えなかった

「これは翳した相手のジェネライトの状態によって発する光の色が変わる特別な品だよ。ミントの研究の副産物だ」

意味がわからず固まっていると、ヴィリスがその鎖をドラゴマンに投げてよこす

手の中にある石をまじまじと見つめていると、鈍く煌めく石は青い光をぼんやりと放ち始めた

「青、か…まあいい。試しにそっちの少女にかざしてみろ」

楽しそうな声色でアムを顎で示す

ドラゴマンがアムの方に石を向けると、どろどろで重い煙のような光を発し始めた

「やはりな…その少女のジェネライトはそんな色をしてるってことだ」


ヴィリスは頬杖をついたまま、ドラゴマンに笑ってみせた


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