ヴィリスとの謁見の後、ドラゴマンたちは与えられた部屋で旅の疲れを癒すためにのんびりと過ごしていた
仲間達はすでに床につき寝息を立てている
最初は警戒していたスミスだが、数日経ちすっかり警戒も解けたらしい。
曰く、「あの皇帝はその気になれば俺たち全員を即座に斬り捨てられるだろう。そんな強者がこそこそと寝込みを襲うとは考えられん」ということらしい
その晩、珍しく寝つきが悪くバルコニーに出て謁見の日のヴィリスの言葉を思い出していた
ミントの儀…あの日まではたしかに誰よりも強いヒーローになる自信があった
しかし今回の旅の中では、暴走したランジュとスミスの間に割って入ることもできず、ただ伏していただけ
森の魔女にはそのランジュとスミスと一緒に戦ってさえ勝てる見込みは無いように思えた
「俺が…この帝国の軍を率いるだって…?」
あまりに激しい自己と他者からの評価の差に、ただただ戸惑うばかりだ
「ジェネライト…王国で教えられたものとは全然違うということなんだな」
月明かりの下、何かを確認するかのように手のひらを眺め呟く
例の石は使用するのに多少の魔力を消耗するらしく、普段はトルソーに鎧と一緒にかけてある
あの石をアムに使った時に見えた、真っ黒という表現では言い表せない底無しの深淵…
どれほど壮絶な光景を見てきたのか…アムの寝顔に目を向ける
あの日から何か大きなものに絡め取られてしまった自らの運命の糸を手繰り寄せるように、今夜も更けていった
「ドラゴマン様。出立のご命令がくだされました。」
ノックのあと、部屋に入るなり厳かにネビュロが告げる
すっかりここでの生活に慣れきって気が抜けかけていたドラゴマンは、戯けた様子の一切ないネビュロの口調に背筋を伸ばす
目的地は中央地域
魔女や山の獣とのことを思い出し、ため息をつく。ランジュとスミスはここに留まり修行の日々だという
1人であの魔女の森を抜け、山を超えるというのか…
わざとらしく項垂れてみたものの、ネビュロは無言でこちらを見ている
この野郎、普段あんなに気が利くのに気づいてないふりしてやがる…
ドラゴマンは白々しい皇帝の使い魔を睨みながら、旅立ちの準備を始めた
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