彼は薄暗い部屋の中で目を覚ました
ジェネライトが騒がしい
彼が本能でのみ暴れ回る魔獣だった頃
今となっては記憶も朧げだが…
1体の化け物の死体を見つけた
長く透き通るような白髪を湛えた頭部はまだ真新しい鎧を着た上半身の数メートル先で転がっている
下半身は、今まで彼が見てきた人間のそれとはまったくの別物だった
植物の根のように大小様々な触手が、まだ死んで間も無いことを主張しているかのように蠢いている
上半身の近くに落ちていた2本の武器の輝きに、魔獣は生まれて初めて『美しい』という感想を浮かべた
欲しい
明確に、本来ならありえないはずの欲求を認識する
本能が、ジェネライトが、そうしろと命じたかのように、魔獣は彼女の死体を貪った
白く美しい怪物
気づけば四足歩行だった魔獣の視点は高くなり、視界の端には透き通るような白髪が靡いている
魔獣だった頃の記憶を辿り、人間がそうしていたように彼女のものだった鎧と武器を身につけた
自分が自分でないような…今まで感じたことのないような感覚
彼女のジェネライトと自身のジェネライトが融合したという事実に、彼が気づく術はまだない
本能がざわめく
いかねばならない場所がある
思考、想い、魂…今まで持ち合わせていなかったような心の動きで脳が忙しい
押し寄せる魂のフィードバックにふらつきながら、彼は東、オラン山脈へ向かった
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