森の木々は道を開けるように山の入り口まで彼を導く
山と森を遮るように何らかの力が作用しているようだったが、難なく通り過ぎることができた
ただの魔獣だった頃は恐ろしくて近づくことなど考えもしなかったオランの山に足を踏み入れた彼は、漂う殺気に落胆した
あれほど恐れていたこの山の獣どもの力はこの程度だったのか…
無論、彼女を食い取り込んだ今だからこその余裕ではある
しかし魂が生まれたばかりの彼にそんなことなど理解できるはずもなかった
退屈な山道である
殺気を向けてくる者ももはやいない
たんたんと進んでいたその時
「ウヴォオオオアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
彼の気配に気づいたこの山の主だろうか
縄張りに立ち入ったことを警告しているのだろう
わざわざ探し出してまでどうこうする気も起きない彼は、声の方をキッと睨む
それきり咆哮が彼に向けられることはなかった
山を降りた彼は中央地域に降り立つ
魔獣災害の真っ只中である。かつての同族である魔獣達が敵意剥き出しで襲いかかってきた
どうやら彼らが認識しているのはあの女のジェネライトの方のようだ
かといって魔獣達は情など持ち合わせていない
何の感慨もなく、2本の剣で同族を斬り捨てていく
魔獣だった頃の破壊衝動とは違い、何も感じない
奮戦するヒーローズも彼が魔獣であることに気付きもせず魔獣と相対している
無数の同族を斬り捨て、いつしか本能のざわめきは落ち着いてしまった
何か、誰かを探すような、そんな感覚
しかし知りもしない誰かのことなど思い出せるはずもなく
そして魔獣災害は終息を迎える
いつかあの胸のざわめきが再び感じられることを願いながら、人知れず姿を消した
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