帝国領 北の街
魔獣災害以降も穀物などを主力とした交易で比較的早い段階で復興を果たした街である
ヴィリスの手腕により、北の厳しい環境でもよく育つ穀物が西側の民の胃袋を満たすようになって久しい
しかし最近では商隊の行き来はめっきり減ってしまった
たまに来るのは物々しい護衛を多数従えた大手商会のみである
最近では旅人の数も少ない
その理由は、街へと通じる街道にあった
「また商隊がやられたらしいな…」
「ああ、ちくしょう…辻斬の野郎のせいで不景気でたまらんぜ」
酒場では地元の麦をつかった蒸留酒を片手にこんな愚痴が頻繁に聞こえる
「帝国の兵士もやられちまったらしい…」
そう、魔獣災害を生き延びた軍人でさえ斬り捨てられるほどの腕前をもった殺人鬼
北の街へ通じる一番大きな街道を塞ぐようにして死体の山が築かれているのだった
狙われるのは何故か商人ばかりであったが、街を訪れる旅人も噂を恐れて近寄らなくなってしまった
「商隊がきてくれないと酒や木材の出荷がままならねえ…」
「旅人がこないとうちの宿屋は商売あがったりだよ…」
災害前の楽天的な西側のイメージとは大きく異なり、ため息ばかりが空気を濁している
辻斬りの正体についても様々な噂が流れていた
「○○の商人に騙されてこさえた借金で首が回らなくなった浪人が、そいつを探して殺そうとしているらしい」
「血を啜る魔剣に頭をやられちまったのさ」
「金持ちの家の息子が刺激を求めて道楽でやってるって聞いたぞ」
「姿を見たって奴の話によると、それはそれは美しい顔をした男みたいだ。帯で留めるタイプの珍しい服装だって聞いたぞ」
「本当にそんなに強いんだろうか?魔獣の生き残りとかじゃないのか?」
好き好きに言いたい放題であるが、それは姿の見えない殺人鬼への恐怖の裏返しであった
「おい、今度はオーバ商会のやつらだ。どんどん現場が街に近づいてきてるぞ…」
「…ったく…敵わんな…」
0コメント