「何だよこれ…おかしいだろ…っ!」
ドラゴマンは襲いくる獣たちを捌きながら誰にともなく怨嗟の声を漏らした
幸運にも森でマヨヒガに再会することはなかったが、山に足を踏み入れた瞬間に前回はおとなしかったはずの獣たちが襲ってきたのだ
前回との雰囲気の違いに気づいてから、ドラゴマンは警戒をやめ最短ルートで出口を目指す
昼も夜もなく襲いかかってくる魔物を退けながら、夜通し進み続けた
歩き続けて数日が経ち、今は廃墟群となったかつてのアムの故郷が見えてきた時、やっと自分が生きて山を降りられたことに気づく
あれから一月ほどしか経っていないにも関わらず、随分と昔のことのように思える
ドラゴマンに下った命は大陸全土の強者のスカウトだ
西側はすでに数名のスカウトが活動を開始しているらしく、土地勘のあるドラゴマンが中央を任されたということらしい
「まったく人づかいが荒いんだよ皇帝陛下…獣が襲ってきてたらどうしてくれる予定だったんだ…」
奴がこちらを襲って来なかった理由は不明だが、次も同じとは限らない
しかしあの統率の無い獣たちの動きは…山の中で何かあったのだろうか?
疲れ果て動けないまま考え事をしてしまっていたせいで、陽がかなり傾いていることに気づくのが遅れてしまった
荷物は山を全速力で抜けてきたせいでどこかで落としてしまっていたらしい
「ツイてないにもほどがあるな…」
ここしばらくのあまりの運の無さに込み上げた笑いとため息が漏れる
とにかくどうにか朝まで身体を休ませたいのだが…
「気は進まないんだが…」
廃屋の軒先でも借りようと村の中を進む
あまりの惨状に言い訳がましい独り言が口から溢れてしまう
そしてこじんまりとした宿のような建物が焼け残っているのを見つけると、死者に祈りを捧げて夜を明かしたのだった
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