少年には生まれつき目が不自由な妹がいた
妹は兄を慕い、兄も妹を可愛がっていた
妹は兄が読み聞かせてくれるヒーローの活躍のお話が大のお気に入りで、暇があればそれをねだった
兄自身もヒーローに憧れ、強い男になろうと決めていた
しかし訓練を重ねても重ねても、どうしてか弱々しい身体は強くなることはなかった
妹は兄の頑張りを知っていたので、きっと強く正しいヒーローとなるものだと信じている
「こんなに頑張ってるんだもん、お兄ちゃんがヒーローになったら悪い魔獣をみーんなやっつけてくれるもんね!この町の人たちも魔獣に怯えなくて済むね!」
訓練のあと、妹は必ず彼にこう熱っぽく語りかける
少年は妹をがっかりさせないように、当たり前だろ!と応えるのがいつもの流れだった
身体も弱く、目も見えない妹はベッドから出ることもほとんどなく、楽しみといえば兄が聞かせてくれる英雄譚と今日の訓練の様子だけだった
そして彼…エクシドが元服を迎える年
ミントの儀を直前に控えてもまだ、彼の身体は貧相なままだった
候補兵として少年軍へ入団しようとするも審査で落とされた
まじめで頭もよかった彼は事務方への進路変更を勧められたがそれも断った
妹には見聞きした候補兵団の訓練内容をさもこなしてきたかのように語ってやる
そうすると何も知らない妹はとても喜び、彼はほんの少しの胸の痛みに気付かぬふりをする
そうして日中は独自に候補兵団の訓練メニューをこなし、妹が寝入ったあとにも庭に出て素振りを重ねた
こんなにも…頑張ってきたのに…なんで…
近づくミントの儀。ヒーローとなるには正義の心が最重要だと言われているが、その強さに影響するのは実際の強さだという説が一般的である
「このままじゃあの人みたいになるのは無理だ…どうにかして強くならないと…」
焦りが心を支配していく…妹は兄がヒーローとなるのを楽しみにしている
一層激しい訓練を自らに課し、がむしゃらに努力を重ね続けた
妹に読み聞かせをしてやることも徐々に減っていった
妹は寂しそうだったが、兄が頑張っているのを邪魔してはならないと我慢するのだった
エクシドが今にも身体が壊れてしまいそうなほどに自分を追い込み続けていたそんな折
第二次魔獣災害にて無類の強さを誇ったヒーローが近くを訪れているという噂が耳に飛び込んできた
そのヒーローは強く、正しく、そして弟子をとっているという噂だ
彼はそのヒーローに会いに行くことを決める
あの憧れの竜騎士のように強く正しいヒーローになるヒントが得られるかもしれない
エクシドは止める両親や妹を振り切り、そのヒーローがいるという村へと旅立っていった
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