柔らかな日差しで目を覚ます
滅んだ村とは思えないほど穏やかな朝だ
少し村の様子を見て回ろうと宿屋だった廃墟を出た時だった
ブブブブブブブ…と、胸に下げた石が振動を始める
「なんだ…?」
驚きながら石を取り出すと、不思議なことにほんの少しだけ引っ張られる感覚があった
「反応があったってことが…ジェネライトの暴走が」
謁見のあとネビュロから石の機能について説明があった
かざした相手のジェネライトの色を判別すること、そして暴走するほど高まったジェネライトに反応し、持ち主をそこへ導くことの2つだ
おそらく場所は中央地域の北部あたりだろうか?小さな亀が糸を引っ張る程度の強さではあるが、大体の方向は掴める
廃墟の探索はまた別の機会にするとして、反応のある方へと足を向けた
その時だった
針のように細くするどい殺気がうなじの毛を焼く感覚
瞳孔が瞬時に縮まり本能が体を勝手に右に転がす
音もなく振り抜かれたその剣に、ほんの少し懐かしさを覚えた
「避けたんだね。すごいじゃないか!今までこれを避け切れた人間はいなかったよ!」
剣筋の冷たさと正反対に興奮した様子でそいつは話しかけてきた
声も口調も全く違うはずなのに、なぜか懐かしさを払うことができずにいる
どう見てもあいつの鎧、そして2本の剣
あの日神殿で西に向けて飛び立った彼女が身に纏っていた装備そのものだった
白き龍の如き美しい輝きが、記憶の中から目の前に蘇ってくる
「なんだてめえ。そいつをどこで」
問いかけている途中で奴が攻撃を再開する
「ジェネライトが導くままに来てみたら、君に会いたがっていたのか、彼女は」
勝手に納得してふんふん頷いているが、その斬撃は冷たく鋭い
2本の剣が描く軌跡は、一度も勝てたことのない彼女のものにそっくりだった
白く透き通るような長い白髪が左右に揺れる
儀式までは艶のある綺麗な黒髪だった彼女は、ヒーローとなったその瞬間に色素を失ったかのように白髪に変わった
ドラゴマンはあの日、彼女を美しいと思った
無感情に、機械的に襲いくる斬撃を受け流し切れずに少しずつダメージを蓄積していくドラゴマン
反対に、わざと致命傷を避けるかのように浅く斬りつけてくる奴は、心底楽しんでいるような表情をしている
しかし剣の軌跡が徐々に変わり、刻まれる傷は多く、深くなっていった
いつのまにか楽しそうだった奴の表情は冷たく不機嫌そうなものに変わっていた
「ふつうの人間よりは楽しめたんだけど、もう飽きちゃったな」
不意に剣ではなく前蹴りで突き飛ばされる
背後の民家のただ一つ燃え残っていた壁を崩して止まったドラゴマンは、最後の力を振り絞って先ほど遮られた質問を再度投げかけた
「これ?見ていたんだよ、ボクは」
意味のわからない端的な返答に返す言葉を探していると、伝わらなかったことに気分を害したような顔で続けた
「だから!こいつは最初は敵だったの!でもボクたちみたいになったんだ。急にだよ!すごいよね!面白い!そして最初は一緒に戦っていたヒトたちに何でか斬りかかって、そして死んだの。お腹が減ってたから食べただけだよ。そして誰も着ることもないだろうし、この鎧も剣ももらったんだ」
何か文句でもあるのかと言わんばかりの勢いで明かされた幼馴染の最期に、ドラゴマンの頭の中は真っ白になった
そうなる前はこんなだったんだ、ボク。と四つん這いのような仕草で説明を続けているが、聞こえていないことに気づくと戯けるのをやめた
「疲れたァ…この言葉ってやつ、覚えるのに苦労したんだよね。人間てなんでこうも面倒なんだろう」
放心したまま動けないドラゴマンにゆっくりと歩み寄り、奴はドラゴマンの耳元で囁く
「ボクの中のジェネライトが、キミを殺したくてうずうずしてるんだ。ヤメテ、ヤメテ、ってね」
ーーーーブチッ
その言葉で全身の血液が沸騰するのを感じる
鍛え上げた筋肉がパンパンに膨張する
全身に刻まれた傷口から血が噴き出す
そしてーーーーーー
ーーーーーーードラゴマンの腹から背中へ奴の剣が突き抜けたのと同時に口から大量の血が噴き出した
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