祖母の教え

与太話である

人間は生前の行いによって死後が決まる

王国神話が浸透していない地域で生まれた祖母は、幼い頃のジョニーによくこんな話をしてくれた

今目の前にある出来事は前世…つまり転生前の行いで決められたものである

来世のために今を清く生きよ、と

幼い頃からこの祖母の教えに従い、周りの困っている人を助けてきた

下心ではあったが、祖母は下心があってはいけないなど一言も言っていなかったので問題ないだろう

とにかく彼は徳を積むように生きてきたのだ


ヒーローとなるため訓練兵に志願したのもそういった背景が影響しているのだろう

しかし実際に訓練兵となってみて内側から見たその世界は理想とかけ離れたものだった

利権、欲望、嫉妬

いつしかあの頃の純粋な想いは邪魔な荷物となっていた

とにかくこの世界で生き抜くためにヒーローになる、と。そればかり考えてきた


そんな時に現れたのがルーセントだ

奴は才能に恵まれ、人望もある。本来俺が目指したかったヒーローは、たぶんこんな奴なんだろう

嫉妬から目を背けるようにルーセントをあしらってはいたが、本当だったらこの国の将来について語り合いたかった

全てを後回しにして、ヒーローとなることを優先してきたのだ


それがこんなところで、下級の蛇の化け物に呑まれて終わってしまうなんて…


「ちくしょうめ…」

思わず漏れた悪態の声にびくっと背中が跳ねる

「…え?」

蛇に飲まれ、真っ赤な粘膜に絡めとられ、最後の呪詛を唱えていたはずだった

視界に映るのは一面の青

それが空だと気付いて起き上がり見渡すと、真っ赤な蛇の粘膜ではなく穏やかな湖畔が広がっている

骨や筋肉が軋み激痛が走るが、状況を把握するために無理矢理上体を起こす

どうやら立ち上がることはできそうだ。やっとのことで立ち上がると、音もなく静かに揺れる水面によろよろと歩み寄った

普段より視点も高く、バランスが取りづらい

悲鳴をあげる三半規管を落ち着かせるため、水を飲もうと屈んだその時だった


「誰だよ…これ…」

水面に映るのは、自分の知る自らの年齢よりも10歳ほど上の男の顔

ジョニーとは似ても似つかない精悍な顔立ち

状況が飲み込めず、ジョニーは呆然と水面に映る男の顔を凝視し続けていた


ふと祖母の話の続きが頭に浮かぶ

『魂は死なない。神様の予定から外れて体を失った魂が、他の体に移っちまうこともあるのさ』


0コメント

  • 1000 / 1000