「この辺りで反応が…?」
ドラゴマンは街道からずいぶん離れた草原で足を止める
石の反応が止んだのはこの辺りだろう
キョロキョロと見回しながら進んでみる
それにしてもこんな夜更けの草原で野獣の1匹も気配を感じないのが不気味だった
肉食獣の1頭でも姿を見そうなものだが…
少し背の高い草むらを通り過ぎた時、漸く不自然な音が聞こえてきた
「やあ…お待ちしてましたよ」
声色からずいぶん余裕を感じる。夜闇に浮かぶシルエットは随分と鍛えられたの男のようだが、若干のバランスの悪さに違和感を覚える
「待っていただと?」
男の言葉に疑問が浮かぶ。ドラゴマンがここに向かっていることを知っていたとでも言いたげだ
「ええ、とある存在と、この子達から…」
男がそう言った瞬間、月が雲間から顔を出し男の姿を照らした
体には戦士の太ももと同じような太さの蛇が巻き付いている
暗闇で体格を測り間違えたのはこの蛇のせいだったらしい。顔の雰囲気では痩せぎすの男だ
「…たち?」
ドラゴマンの疑問が合図だったかのように男の肩に猛禽の鳥が舞い降りた
「疑問ばかりですね…あなたがこちらを訪ねていらっしゃったのでは?」
やれやれと首を振ると蛇が地面にするすると降りていく
さて、と発すると同時に立ち上がる。やはり線の細い男性だった
男に指摘され、本来の目的を思い出す
「あんたのジェネライトは暴走しているようだ。ここで簡易的なミントの儀を執り行う」
ヴィリスから簡単に説明されたのはこうだ
『王国はジェネライトは正義の心に反応すると教育しているようだが実際は正と負の方向性など関係ない。このことは以前に伝えたな?稀に強い負の感情によってジェネライトが暴走することがある。ミントエーテルはジェネライトに反応しあるべき状態に昇華する効果があるのさ…ちょうどお前の仲間達のようにな。
お前にはこの石を使って各地で暴走したジェネライトに対しミントエーテルを投与し、ヒーローと同等の力を得たそいつらを我が軍に引き入れてもらいたい』
「神官でもないあなたがミントの儀を…ですって?」
呆れて頭をぽりぽりと掻くと、戸惑ったような目を向ける
ドラゴマンはヴィリスに言われたのと同じように男に説明した
『神殿で儀式を行うのは、秘めた感情の増幅とジェネライトの表出のためだ。既に強い感情によって暴走したジェネライトはその2つの役割を満たしているってわけだ』
まあいいでしょう、とぼそっと呟くと、手渡したミントエーテルを一気に飲み干した
旅の中で見てきたように、眩い光が全身を包み、そして収束していく
「儀式は完了したようだ」
緊張を悟られないように、ゆっくりと厳かめに宣言する
「お疲れ様でした、黒い神官殿」
と肩をひとつ叩かれる。バレていたのだろうか
それで、と一言
「事情はあとでお話しするとして、わたしはこれからどうすれば?実は王国にはいられなくなりましてね」
飄々と話すその商人に背を向け、顔だけ振り返る
「あんた、名前は?」
ああ、と思い出したように作り笑顔をこちらへ向けて、男は名乗った
「魔獣商エコーと申します」
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