ポリゴネアの小国のひとつ、プラヴダ
コンラット王の盟友であるプラヴ王の内政は国民からの支持も高く、善王善政であると評判であった
先の第一次魔獣災害においても最小限の被害で済んだのは、コンラット王の庇護のみならず、善政を敷くプラヴ王の人徳により国民が士気高く勇猛に国防に臨んだ結果であると歴史書にも記されている
そんな繁栄の歴史を辿っていたプラヴダ国も今となっては死の土地とされ、近寄る者は多くはない
その滅亡の原因はプラヴダの第一王子にあるらしい
第二王子であるレムは第二次魔獣災害においてヒーローとして選ばれ、今やポリゴネアの英雄の一人に数えられている
以上が一般的に知られているプラヴダに関する情報の全てである
石の反応が示すのはここ、プラヴダ国跡地
漂う瘴気は魔獣を呼び寄せ、人の住める環境とは程遠い。そのため近隣の国々もおいそれと手出しはできないようで、跋扈する魔獣は増える一方であった
「ヒーローになったってのに、レム元王子は何だって故郷であるこの地を放っておくんだろうな」
ドラゴマンは石の反応を無感情に眺めながら疑問を口にする
「ヒーローとは言えコントラクト王国の軍属ですからね。放棄された土地とは言え領土の拡大行為と見做されそうな行動は制限されるはずですよ。」
首にまとわりついた大蛇を撫でながら、つまらなそうにエコーが答える
「ヒーローも大変だよなあ」
ため息と同時に立ち上がり、尻についた土や埃をパッと払う
「旦那も随分と苦労されてるようですがね」
今度は心底楽しそうにこちらを見るエコー
恨めしそうに見返すと、これから待ち受ける苦労を想像してもう一度ため息を漏らす
彼らの背後には魔獣の骸が山積みになっている
眼下に臨むは今や廃墟と成り果てたプラヴダ城跡
石は明らかにあの城の中を指し示している
禍々しいジェネライトの反応が目に見えるようだ
プラヴダ滅亡の鍵を握るムルス王子と魔剣イヴルス
今その所在は明らかになっていない
しかしこの地に反応があるということは、もしかすると…
「旦那、来やしたぜ」
エコーが城の方を指差す
獣と同等の感覚を身につけたこの男には何かが見えるらしいが、ドラゴマンにはまだ何も見えない
しかし何が来たのかは検討がついている
「すまんが相棒にもうひと頑張りしてもらってもいいか?ここで消耗するわけにもいかなそうだ」
「へいへい、獅子使いの荒い旦那ですわな」
口の端からクックと楽しそうな笑い声を漏らしながら、エコーは鞭を振るう
燻した銀のような鈍い輝きを肌に湛えた一頭の巨大な獅子が音もなく二人の隣に並び立つと、ルルルと控えめに喉を鳴らした
「連戦ですまねえが、ちょちょいと捻ってきてくれ。駄賃は奴らを好きなだけ。足りなければ旦那にねだりな」
エコーの言葉に一吠えして獅子は崖を駆け降りていく
ドラゴマンにもやっと捉えられた土煙は、それほど間をおかずに静かになるだろう
「俺たちもいくぞ」
ドラゴマンたちはこちらへ猛スピードで迫る土煙を一瞥もしないまま城の方へ進み出した
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