「驚いたな…」
ドラゴマンの見上げた先には巨大なクリスタルが固定されている
中央に張られた古びたロープやまばらに貼られたボロボロの紙がどこか禍々しい
どうやら何かを封印するための処置らしい
石があのクリスタルを示しているのは間違いないようだ
「なんでこんなところに…」
ドラゴマンがクリスタルに近づくと、それに反応したかのように脈動のような明滅を始めた
そのクリスタルの中に囚われていたのは、イヴルスという魔剣に魅入られ、この国を滅亡に導き、そして姿を消したと言われているムルスその人であった
平和だったクリプト大陸を史上2度目の魔獣災害が襲った時期、この小国プラヴダでその事件は起こった
第一王子であるムルスが突如として父親である国王と王妃を殺害
国王の死、第一王子の裏切りによる混乱は魔獣災害への対応を許さず、瞬く間に災害に呑まれていった
幸運にもこの厄災から逃れることができたレム第二王子は後にXヒーローズとなり、ポリゴネア…特に彼の故郷であるプラヴダ近隣を中心とした大陸全土の危機を救うことになる
しかし魔獣達にプラヴダが蹂躙される頃にはムルス第一王子は姿を消していたと言われている
それがなぜここに戻り、封印などされているのだろうか
そしてこの城を守るように配されたアンデッド達…
大きな力が動いている。そう感じずにはいられなかった
明滅を繰り返すクリスタルを見上げながらそんなことを考えていたが、これでは埒が明かない
石の反応の発生源は特定できたものの、クリスタルと外側の二重の封印は当然第二次魔獣災害後に施されたものだろう。であれば、たった数年で自然に解けるようなものでもない
この先数百年はムルスを閉じ込めておくに違いない
しかしここまでの反応を示すジェネライトの持ち主である
ヴィリスの求めるヒーローズに対抗し得る軍勢に加えれば大きな力となるのは間違いなかった
「どうしたもんか…」
ドラゴマンは困り果てたように漏らすが、その声を聞き届けてくれる人間は今ここには誰もいない
ここにただ立っていてもクリスタルの封印を解くことはできないし、死ぬことはないだろうが城門の外に置き去りにしたエコーのことも気に掛かる
防衛機構のほとんどを処理してきたため他者の介入の危険性はあるが、一旦保留にしてこの地を離れる他あるまい
クリスタルの封印を解くなどそこらの遺跡荒らしにできる芸当では到底ない
深いため息とともに踵を返し、クリスタルに背を向けた
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