「随分と遅かったじゃないっすか旦那…」
城門は内側から難なく開くことができた
どうやら扉の外側にのみ不可侵の呪いがかかっていたようだ
城門があまりにあっさりと開いたことに呆然としながら外へ出ると、ボロボロになって座り込んだエコーが息を切らしながら恨言をぶつけてきたのだった
「で、お望みのものは見つかったんですかい?」
悠然と寝そべる黒い獅子にもたれながら呑気に問いかけてくるエコーに、ドラゴマンはどう答えるべきか一瞬、言葉に詰まった
「なんですかいその微妙な反応は…」
疲れ果てて苦笑するその顔を見据えながら、玉座の間で見つけたクリスタルのことを語って聞かせた
そして、クリスタルの中のムルス王子のことも
「第二次魔獣災害以降に施された封印…クリスタルに標縄、札ですなぁ…大陸の封印術を東方の呪術で重ねて守っている、と」
「標縄?札?」
聞き慣れぬ言葉に、ドラゴマンは聞き返す
「東方の島に伝わる呪物…というより儀式用具ですね。東方の技術が使われてるとなると…」
エコーは質問に半端に答えたあとブツブツと考え込んでしまった
東方の儀式用具…新たな悩みの種にめまいを覚える
「封印を解く方法に見当がつかない以上、ここで時間を潰していても仕方ない。一度帝国へ戻り、お前を正式に帝国軍、ヴィランズに編入する」
せっかくの戦果を前にこの地を離れるのは些か不満ではあったが、時間は有限なのだ
できることは一つずつ片付けていかなくてはならない
西の魔女が姿を消したという噂があるらしい
ネビュロからの報せは事態の変化を示している
ヴィリスの語った軍事力強化の背景を考えると、無駄にしていい時間は1秒もないだろう
「魔剣に魅入られたムルス王子帝国の大きな戦力となり得る。何としてもその力、貰い受ける必要がある。だが解放する方法が思い当たらない以上一度引き上げるぞ」
もう一度エコーに声をかけ、2人は呪われた地を後にした
その後ろ姿を見送る影があった
長い髪を掻き上げ、紅い口元を歪め、そして呟く
「守衛達があんなに簡単に…こんな短期間でここまで強くなったのね…やっぱりあの時手に入れておけばよかったわ…」
周りに聞く者が居れば即座に魅了され隷属を誓うであろう妖艶な声は、はたしてドラゴマンの背中には届かなかった
不吉な予感に彼がそちらへ振り返った時には、その人物は姿を消していた
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