獣、再び

プリヴダを後にしたドラゴマンたちは再び西の地に向かうべくオラン山脈を越えようとしていた

エコーを仲間に引き入れ、自身の力も格段に上がったとは言え、ランジュやスミス無しに獣と相対することには不安があった

エコーにも事前に注意をしてある。彼に従う獅子でさえあの強靭な獣と戦って無事で済むとは思えなかった

「聞いてないっすよ…」

青ざめたまま固まるエコーを横目に、ドラゴマンは先に進みながら言う

「こっちに渡って来た時は遭遇しなかった。ランジュやスミスの獣由来のジェネライトにでも反応していたんだろう。俺たちだけならきっと大丈夫だ」

それは自分自身に言い聞かせる意味もあったが、魔獣使いは安堵したようにとぼとぼとドラゴマンの後をついてきた


何事もなく2日かけて頂上を越え、獣の不在に胸を撫で下ろしている時だった


ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


唐突に目の前を閉ざす絶望

もしかしたら前回の戦いで力尽きたのではないかと淡い期待を抱いていたが、そう甘くはいかないようだった

「ヒェッ!何なんですかありゃッ!」

エコーが騒ぎ出す

「言っただろ、獣だよ」

血相を変えて足を早める2人

幸いにも声は遠く、今回はもしかしたら逃げ切れるかもしれない

森の住人も前回は大人しくしてくれていた

下山し森に入ってさえしまえばあの魔女の張った結界が獣を遮ってくれる

急ぎながらもエコーに説明すると、肩にかけた鞄からごそごそと何かを取り出した

「つまり今のペースで行きゃ時間稼げば逃げ切れるってことっすね」

にやりと笑ったエコーが手に持っていたのは数匹が絡まった蛇の塊だった

「お前鞄にそのまま蛇なんか入れてるのか…」

エコーはドラゴマンの呆れ声を完全に無視し、頼みますよ、と小さく声をかけて蛇を後ろに放った

(あんな小さな蛇ではあの獣を止めることなど…)

エコーが放った蛇を振り返って見ていると、驚くべきことが起こった

肩掛けの小ぶりな鞄に入っていた蛇達が、瞬く間に成人男性の身長ほどの長さに変わっていたのだ


エコーは自慢げにドラゴマンを一瞥し、急ぎましょう、と声をかけた

そのまま休むことなく歩き続け、山の出口も見えて来そうな頃

ヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

耳元で雄叫びを上げられたような衝撃

「ヒエッ」

間の抜けた悲鳴をあげてエコーがつんのめった

抜刀し振り返るドラゴマン

奴はすぐ近くまで迫っている


エコーが立ち上がるのを待っている間に、奴は木々の隙間から姿を現した

急ぐ様子はない。獲物を追い詰めた時の動きだろう

低い唸り声を発しつつ一歩一歩近づいてくる


「悪運尽きたか…」

忌々しげに呟き、ドラゴマンは逃げ切ることを諦め、腰を据えて構えた

エコーには獅子を呼んでもらわねば、たちまちのうちになぶり殺されるだろう

首だけ振り向いて指示をしようと口を開きかけた時、エコーが一瞬早く言葉を発した

その言葉に、ドラゴマンは耳を疑う


「こいつ…人間でさぁ…」

PixelHeroes妄想ストーリー

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