「人間…だと…?」
信じられないエコーの一言に詰め寄りたい気持ちを抑え、ドラゴマンは獣に向き直った
「まるっきりアタシや旦那と同じってわけじゃありません…たしかに魔獣や獣のニオイもするんですが…強いて言うならベースが人間、というか…」
要領を得ない返答だったが、問い詰める余裕はもうない
全力で地面を何度か蹴れば一瞬で間合いに入る距離まで奴は近づいて来ていた
「つまりそれは何とかなるって希望か?それともどうにもならないって諦めか?」
正眼に剣を構えながら背後にいるエコーに問いかける
歩行時より体勢が低い。いつでも飛びかかって来られるだろう
「わかりやせんが…もしかするとテイムしても効果がないかも…」
最悪の返答だった
まだ絶望を突きつけられた方がマシだ
チッ、と舌打ちが漏れる
その時だった
かすかな振動音
石の反応だった
「ジェネライトが反応してるってのか…」
通常この石が反応するのは主に人間だ
理由は簡単で、石はジェネライトの揺らぎを検知する。石が反応を示すほどの揺らぎはほとんど人間特有のものだからだ
魂の変調とでも言うのだろうか
悲劇の帝国に悲劇を背負った戦士が集まるのは、ジェネライトの揺らぎが共鳴しているからだ、とヴィリスが言った
「本当に人間なんだな…」
耳障りな振動音が止まない石を鞄から引っ張り出し、岩に包まれた燃える大男のことを思い出す
ということは…
「エコー!テイムだ!」
「へっ!?今人間だって旦那も納得してたじゃないっすか!人間へのテイムなんて成功するわけ…」
「どう見ても奴は獣だ!だが人間である部分もあるってんなら…どっちにも試すしかねえだろ!」
後ろ手にミントエーテルの瓶をエコーに見せ、意味を伝えた
「たしかにまあ…このまま死ぬくらいなら悪あがきでも何でもしてやりましょうってんですよ!」
意味を汲んだエコーはやけくそに声を張り上げ、鞭を地面に打ちつけた
魔力を孕んだ風が一陣、通り過ぎる
いつのまにかエコーの背後に獅子が悠然と現れた
「アタシが買ったらちゃんと躾けてやりますよ!」
その声を合図に、ドラゴマンは一気に身をかがめ、地を蹴って獣に斬りかかる
同時に飛び出していた獣も太く長い腕を振りかぶり、斬りかかってくるところだった
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