「アンドレイ、ちょっと手伝っておくれよ」
「おうよ」
「あんちゃん、遊んでよ!」
「おうよ」
アンドレイという若者は、村の者から大層慕われていた
若い男衆は多くが魔獣から街を護るために村から引き立てられていった
今この村に残るのは多くが年寄りだった
体の弱い妻と両親の介護のために徴兵を免れたのだが、それが男衆を失った村の人々に対しての負い目となっていた
もちろん村のもの達がアンドレイを責めることはない
彼はよく働き、皆に頼られ慕われ、そして家族の面倒をよく見ているのも皆知っていた
「もし…」
魔獣が大量に発生し、街道から旅人の姿が消えて久しい
そんな中で長いローブに身を包んだ1人の旅人がアンドレイに声をかけてきた
「あんだァ?あんた、旅人か?珍しいじゃねえか!魔獣がそこかしこにいて旅なんてできやしねえなんてよく聞くんだけどなあ」
興味本位だった。見たところ女は剣など振るえなさそうなほど華奢で、傭兵や兵士というわけではなさそうだ
魔法使いというやつなんだろうか?
「どうか助けてはくださいませんでしょうか?」
女は病に臥した父親のために街へ薬を買いにいく途中で、この村を通り過ぎた辺りで魔獣に襲われ命からがら逃げ戻って来たところだという
父親想いなところ、魔獣が村の近くに出現したという事実、そして困った人を放っておけない気質がアンドレイの決意を促した
妻は大層心配したが、村人はアンドレイを称賛した
女の言うところでは、魔獣は下位のもののようで、通常の人間でも勝てる程度のもののようだ
父が昔使っていた鎧と武器を身につけ、魔獣の出たという場所へ赴く
男衆が村にまだ残っていた頃、両親はまだ元気で、それに甘えて暴れ回っていた
ケンカで負けたこともなかった
その頃の自信が彼の判断を誤らせたのだ
女が魔獣が出たと言う場所に着くと、そこに姿を現したのは巨大な魔獣だった
「おいおい姉ちゃん…話が違うじゃねえかよ…」
怯んだアンドレイに魔獣は容赦なく襲いかかる
父の鎧は引き裂かれ、剣は半ばからへし折られた
ケンカに慣れているとはいえ、魔獣との戦いはほとんど初めてである
満身創痍の状態で、立っているのもやっとだ
(このままこいつを生かしておけば村に被害が出ちまう…)
アンドレイは決意する
腕を広げて魔獣が胴に噛み付いてくるのを誘い、そして狙い通りに顔を横にして腹の柔らかい部分を狙って来た
臓物を抉る激痛に堪えながら、アンドレイは最後の一撃を目に叩き込んだ
折られた剣を無理矢理に捩じ込み、深く突き立てる
魔獣は思いも寄らない反撃に口を離し、ヨタヨタと逃げようとしたが、アンドレイは最後の気力を振り絞って折れた剣の先を足に突き立てた
魔獣の呻きが呼吸とともに止んだのを聞き届けると、アンドレイもやっと安堵して死に身を預けていく
「強いジェネライトの反応を感じて引き合わせてみたのだけれど…正解だったようね。いいわ、貴方に決めた」
あの旅人の声だった
薄れゆく意識の中で、旅人の素顔を見た
女は恐れを抱くほど美しかった
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