ランジュは今にも不満が爆発しそうだった
帝国へ来てからというもの、若い兵士たちと同じ訓練に付き合わされているのだが、それが退屈すぎた
普通の人間達とは違い、ランジュやスミスの武器は体そのものである
鎧を着て剣や槍で武装していても相手にならなかった
「あいつらの訓練にはなるかもしれないけどさあ…私全然強くなった気がしないんだけど…」
同じく訓練から帰ったスミスに愚痴をこぼす
「仕方がないだろう。俺たちが初めて本気で訓練した時のことを忘れたのか?」
スミスが窘めると、ランジュは黙るしかなかった
帝国に来てドラゴマンが仲間探しの旅に出てしまったあと、ヴィリス皇帝の好意でスミスと本気で模擬戦をした時のことだ
「大変失礼なこととは存じますがお二方…訓練場が使い物にならなくなってしまいます…」
いつも余裕の態度でパタパタと浮かんでいるネビュロが珍しく焦って飛んできたのだ
溜まったフラストレーションを発散するように全力で暴れたのがいけなかった。訓練場として用意された場所はスミスの炎とランジュの電撃、激しい近接戦闘の余波で荒れ放題となってしまっていた
「これでは兵士たちの訓練に支障が出てしまいます故…」
言いにくそうに言葉を濁すネビュロに対し、スミスはあせあせと謝罪していた
いつも冷静な2人がこうも取り乱しているのを見ているのは興味深かったが、なぜそのようなことになっているのかランジュには理解できなかった
「ランジュ嬢には年齢相応の知識や作法なども学んで頂かなくてはなりませんな…」
宮廷の上品な言葉遣いのせいで勉強のことだと気づかなかったランジュは満面の笑みでそれを受け入れたが、すぐにそれは失敗だったと気づくことになる
一方でアムは以前にも増して口数を減らしていた
ランジュと話す時は普通のように見えるのだが、宮殿の使いなどと話す時は必要最低限しか発言しない。1人の時は何かを深く考え込んでいるようだった
スミスはその変化に気づいてはいたが、幼い少女の扱いなど知る由もない
ネビュロが時折様子を見ているようだし、その気遣いに任せることにしていた
スミスは幼い少女たちが宮殿で失礼のないように見守りつつ、帝国の戦力増強のため兵士たちの訓練によく協力している
訓練場をダメにした折は帝国の職人たちに混じり石工としての本領を発揮するなどして人望を集めていた
「戻ったぞ」
二月ほどしか経っていないにも関わらず妙に懐かしい声が部屋に響く
見ると見知らぬ男を2人引き連れていた
ランジュとアンドレイは顔を合わせるなり唸りあう
スミスは慌ててランジュを抑えたが、理由がわからず混乱しているようだ
匂いに敏感な者同士何かを察知したのかもしれない
「やっぱりか…先に紹介しておいた方が良さそうだな」
兜を外し頬をぽりぽりと掻きながら嘆息する
「こいつが山の獣…」
スミスは興味深そうにアンドレイに目を向ける。ジェネライトが反応しないところを見ると、本当に変質したようだ
ランジュは相変わらず毛を逆立て警戒している。アムは正体を聞き初めて恐怖を覚えたようで、いきりたつランジュの陰に隠れてしまった
「ちっちゃい女の子2人に岩の鎧の大男…聞いていたより新興の帝国は人材不足なんっすね」
ニヤニヤした顔でドラゴマンを小突いているのはエコーと紹介された軽薄そうな男だった
スミスはその態度に苛立ったがドラゴマンが口を開いたのを見て心を鎮める
「非戦闘員のアムはともかく、ランジュはお前の獅子といい勝負をするんじゃないか?」
エコーには衝撃だったようで、顔を引き攣らせて黙るしかないようだ
ドラゴマンとエコーのやりとりを聞いていたアムが、ランジュの背後からおずおずと手をあげて話に入ってくる
「私…たぶん戦えます…」
アムの告白にその場でいた全員が驚きの声をあげた
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