赤い鎧のヒーローは表情を変えることなく鉈を振るってくる
他のヒーロー達はその様子をつまらなそうに眺めている
エクシドは父の形見の剣で何度か受けるが、筋力に見合わない片手半のバスタードソードは持ち上げるだけでも疲労を蓄積する
背伸びをして片手剣ではなくこちらを持ち出したことを後悔していたが、今更遅い
「お前みたいにジェネライトだけ強い雑魚が来てくれてたらもっと楽だったんだがな」
相変わらずシューシューと不快な音が混じる
言葉の意味は汲み取れなかった
「最後に教えてやるよ。そこを見てみろ」
身長ほどもある大鉈を肩に担ぎ、顎でエクシドの背後を示す
指示の通りに背後を振り返ったエクシドは、息を飲んだ
薄暗くて気づかなかったが、そこには人間のものと思しき体の部位が無造作に転がっていた
半分だけの頭、指が2本だけ残った手、朽ちた鎧など
「そろそろこの村も限界だなァ…この村での食事はお前と残った村人で最後だ」
意味がわからない。食事?人間の死体?ヒーローが?
尻餅をついたまま頭が真っ白になる。ここにいるのはヒーローじゃないのか?
村人が虐げていたのではなかったのか?
赤い鎧の男の口から蛇のそれのように先端が裂けた舌が垂れ下がっていた
「あなたは…魔獣…?いや、だって…それ…人間の言葉…」
エクシドの反応を嘲るように笑う男達
「魔獣なんてのと一緒にするなよ。我らは魔族。魔王様の眷属にしてこの世界の真の支配者だ」
隠す必要がなくなったのか、耳まで裂けた口を大きく開け長い舌をゆらゆらと揺らす
「まおう…まぞく…?」
全身は恐怖に震え、思考は停止している。聞き慣れぬ言葉をただ繰り返すことしかできなくなっていた
「足しにもならんが、お前のジェネライトは俺がしっかりと頂いてやるよ」
エクシドの戦意が消えたのを察知したかのように、赤い鎧は大鉈を振り上げた
(あぁ…死んだ…ごめんなユマ…お兄ちゃん戻れそうにない)
盲目の妹のことを想う。そして妹の、世界の行く末を案じた
そして自分が死んだあと、魔王とやらが攻め込んでくるのだろう
魔獣災害など比ではない。人間が滅ぼされてしまう
「じゃあな、ヒーロー」
力を込めるわけでもなく、重力に任せて振り下ろされる大鉈
刃がエクシドの眉間に吸い込まれんとしたその時、その瞳は決意の色を取り戻した
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