人間の子供と赤い鎧の仲間のやりとりは続いていたが、他の男達はすでに興味を失っていた
今まで訪ねてきた人間達は、自分たちがヒーローでないことがわかると勇敢にも立ち向かってきた
中にはそれなりに腕の立つ人間も混じっており、ただ人間を食らいジェネライトを取り込む退屈さをいくらか紛らしてくれていた
が、拠点を移す前の最後の獲物は力も弱く魔力もない。目的であるジェネライトは多少強くはあったが、権利を争うほどではない
最初に立ち上がった赤い鎧がやると言うのなら任せておけばよい。それが他の全員の共通認識だった
人間の子供は既に戦意を喪失している
もはや眺めていても時間の無駄だ。次に起こすべき行動を検討するのに、彼らは思考を切り替えた
「…ほう」
感心したような声をあげたのは頭髪を剃り上げた仲間だった
淡い光を発しながら大鉈を受け止めている
「ジェネライトが活性化したか」
鉈を押し込もうと力を込める仲間が嬉しそうに叫ぶ
エクシドの頭の中は怒りに満ちていた
「ヒーローを騙り多くの人を殺したな?それは絶対に許されない。妹がいるこの世界をお前らなんかに渡さない」
決意に満ちた目で赤い鎧を睨む
力が漲っている。今ならきっと互角程度には戦えるはずだ。エクシドは鉈を受け止める手に力を込めた
「なんだ。妹がいるのか。じゃあ次の拠点はそこに決まりだな。兄を殺された妹のジェネライトもきっと力を増すぞ」
下卑た笑いだった
こいつらは自分を食ったあと、妹も食うと言った
「絶対にさせない」
全身の筋肉が今の今まで眠っていたかのように膨張を始めた
今ここで殺す。エクシドの頭の中はもうそれ以外考えることができなくなっていた
「やればできるじゃないかァ!もっと力を解放してみろ小僧ォ!」
耳から裂けた口を目一杯開いて叫ぶ
しかし赤い鎧は気づいた
先ほどまで見下ろしていた人間の子供が自分より大きくなっていることに
「な…ンだ…?どうなってル?」
「ドラゴンか!?」
先ほどまで興味を失っていた仲間の1人が声をあげる
エクシドは淡い光に包まれながら徐々に姿を変えていた
小屋いっぱいにまで膨れ上がると、赤鎧の鉈を掴んだまま屋根を突き破った
空中に躍り出た龍は尚も巨大化していく
大陸に伝わるドラゴンの姿とは違い、巨大な蛇に体毛が生えたようなその姿は地上に残った偽物のヒーローたちを威嚇するように吠えた
その巨躯を支えることなどできそうにない小さな前足は赤い鎧を掴んだままだ
龍の咆哮は雲を呼び、雷鳴が轟く
赤い鎧を握りつぶした前足からは夥しい量の赤い血が滴り落ちた
偽のヒーローたちは地上から魔法で龍を狙うが、捉えたはずの魔法の軌跡は龍の体を素通りしていくだけである
龍が地上に向かって咆哮すると雲から強烈な光を発して雷が地面を撃つ
魔法の反撃が来なくなっても地を打つ雷は暫く止まなかった
人間だった頃の人格は影を潜め、猛々しい龍へと変化してしまったエクシド
急激な変化により全身を熱と痛みが襲う
龍は痛みに悶えながら必死に叫んだ
しかし人間からすると神獣の咆哮にしか聞こえないだろう
(熱い…痛い…ユマ…)
ユマという言葉の意味さえ忘れてしまい、必死に体を捩る
龍の目に大きな湖が映った。体を蝕む熱を冷ますために湖へ向かう
湖に身を沈めた龍はやっと人心地つく思いだった
しかし一度湖面から体を出すと痛みが再発する
龍は願った。この痛み、苦しみから解放してくれる誰かが訪れることを
どのくらい時間が経ったのだろう
永い時を生きるという龍種にとっては瞬く間であろうか
猛る心を押さえ込み湖底で眠っていた龍が目を覚ます
何かが近づいてくる
それが一体何なのかは龍にはわからなかったが、それは希望を齎してくれる。そんな気がした
疼くジェネライトの赴くままに湖面から顔を出すと、あの痛みがまた襲ってくる
激痛に叫び声をあげながらジェネライトが反応する相手を探していると、魔力の塊が飛んでくるのがわかった
それは湖畔にいる2人の人間から発せられたものだ
ジェネライトが溢れ出し、この体を形作っている
物質的な体ではないため魔力は自分を素通りしていく
攻撃されたと認識してから、また怒りが頭の中を支配していく
世界の全てが自分の敵であるような、そんな気分である
破壊しなくてはならない。死にたくはないのだ。なぜ生きねばならないのかはわからないが…
誰か…誰か助けてくれ…誰でもいい…僕は…
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