(サーク…)
スガラメルデは目の前の寝台に横たわった少女の手を握って縋るようにその名前を呼ぶ
淡い水色の髪は汗によって濡れている。苦しそうに呼吸をするその少女は、スガラメルデの一人娘、サーク
そっと手を胸に当てると、ぽっかりと穴が空いているのがわかる
本来心臓があるべきその場所を、スガラメルデは何度も摩って魔力を込めた
(もう時間がない)
母の顔から魔女の貌へと変わっていくその目には、強い決意の色が滲んでいた
「ここは…」
侵入者の襲撃により厳戒態勢を敷いていた宮殿では、龍神だった青年が目を覚ましていた
龍神だった時に体を悶えさせていた激痛は今も続いているようで、事情を話している間も時折苦悶の表情を浮かべる
「ヒーローの姿をした魔獣か…」
青年はエクシドと名乗った。素性については淀みなく受け答えが可能だったが、記憶の混濁はドラゴンになる前後の部分にのみ見られた
ヒーローに対して疑念を持っていたドラゴマンは、青年がヒーローではないと断じたその4人組の正体について考えるのを後回しにする。問題はエクシド自身のことだ
「実際もうどんなことが起こっても不思議じゃないとは思っていたが…東方の龍神まで出てくるとはお手上げだ」
ドラゴマンはイスから立ち上がり頭を掻いた
古代の獣に龍神…何より自分自身も一度化け物になってしまっている
ヒーローたちも自分のように何らかの影響を受け、魔獣化の症状が出てしまっていてもおかしくはないだろう
ドラゴマンが大きなため息をひとつ吐いたところで、外の騒がしい様子に気がついた
訓練に出ていたスミスたちと、宮殿外へアムの捜索に出ていたアンドレイが一緒に戻ってきたのだ
「ドラゴマン、敵襲だぞ!」
「鎌野郎か?」
「いや、もっとタチが悪い」
スミスが深刻そうに返事をする
「ヒーローズだ」
アンドレイが信じられない言葉を口にする
エクシドは嬉しそうな顔をするが、その憧れのヒーローが帝国へ攻めてきているのだ
戦力を増強している帝国へ攻め込んでくるのだ。今大陸でそれが可能なのはヒーローズを擁する王国くらいだろう
「何を考えてるんだ…戦争になるぞ!」
緊急の軍議が開かれ、ドラゴマンは編成前にも関わらず、ヴィランズ隊の将として招かれることとなった
「現在確認できている王国側の戦力はヒーローズが2000、一般兵で3000程度だ。一気に攻め込んで勝負をつけたいというわけでもないらしい」
宰相からの報告を受けたヴィリスが王国側の戦力をそう分析する。ドラゴマンも異論はなかった
ヒーローズの総数は5000ほどのはずだ。初代の1000人の勇者たちは未だ行方不明のはずである
「進軍のルートは?」
「現在確認中ですが、オラン山脈を越えてきたにしては不自然な点が多いですな」
正規兵の大隊長格は今回全員が参加しているようだった。その中の1人が調査の進捗を報告している
「そこのサーカス軍団にでも調査させたらよいのです。帝国の守備は正規軍で十分でしょう」
大隊長の1人が小馬鹿にしたような口調で言った。正規軍の上層部からよく思われていないことはこの場に来て身に沁みている
「ドラゴマンの隊は個々がヒーローズ並みの強さだ。貴様の隊をヒーローズの本隊に当てて欲しいのか?」
冷たい目でヴィリスが釘を刺すと、大隊長たちは苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んだ
アムの失踪に謎の侵入者、エクシドの言うヒーローズの正体、そしてリリアの姿をした魔獣
奇妙な因縁を感じる
自身のミントの儀での出来事や古代の獣の呪いなど、最近になって異常なことが立て続けに起こっているのはおそらく偶然ではないのだろう
第二次魔獣災害を発端とした何かが裏側で動いている
そんな予感を1人抱えたまま、軍議は解散となった
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