西へ木漏れ日が差し、風がざわざわと木々を揺らす見知った森であればのどかなものなのだろうが、曰くの森となれば話は別だ全ての景色が、全ての音が不気味に感じるそして護衛隊が先導し広場の中程まで進むと、突然地面が盛り上がり巨大な獣が姿を現したしかし体のところどころが腐って骨が見えている場所もある巨大な獣の死体が雄叫びをあげるしかしその右眼だけは爛々と赤く、まるで宝石のように輝いていたという護衛隊は必死に抵抗したがまるで歯が立たないもはや戦闘とは言えないほど一方的なものだった当然戦線を維持できなくなった護衛隊は狂乱し逃げ惑う守る者がいなくなった商人たちもまた、虫のように踏み潰され、引きちぎられた石工はというと、恐怖よりも獣の眼に見入っていたあの石...2022.06.09 15:15
31.獄炎に魅入られし者⑥たった一日足らず一緒にいただけだったが、ドラゴマンは少年を丁重に葬ったとはいえバラバラになった肉片を誰の者か判別することはできない他の仲間達と同様、衣服や装備を埋めて、適当な大きさの石を墓標とした彼の両親に会ったことはない。何かを約束したわけではない。これからも会うことはない少年の家族が真実を知ることはないだろうドラゴマンは胸の痛みから目を背けるように、黙祷を捧げた光が体の中に収束していくと、今まで全身を覆っていた岩は姿を潜めていた少女もそうだったが、ミントエーテルによって表層にある症状を抑えられるようになったのだろう少女は先ほど目を覚まし、仲間が状況を説明しているあれほど凶悪に暴れていた虎娘と同じ人間とはいまだに信じられないほど大...2022.06.09 11:49
30.呪いの器⑥引き連れてきた仲間は子供たちを除いて6人一人は首を吹っ飛ばされ、居残った仲間達で形を残しているのは2人分生きてるのかどうかはここからでは判断できないドラゴマンはというと、あまりの衝撃で起き上がることすらできずにいた虎のような体毛に包まれた元少女と、岩の人形はドラゴマンを吹っ飛ばしたあと楽しそうによろしくやっている岩人形が虎娘を吹っ飛ばすと、炎で追撃する虎娘も負けじと食らいつき、岩石の表面を打撃で削る一進一退、互角のようにも見えるが、体が未成熟な分虎娘はキツそうだ決着がつく前になんとかしないといけないどちらも殺すわけにはいかないドラゴマンは這いつくばって馬車のあった場所に転がった荷物のところへ急いだあれを使えば、もしかしたら…ドラゴマ...2022.06.09 10:21
29.呪いの器⑤ドラゴマンの一行は獣の森へ向けて歩いていた両親と最期の言葉も交わすことのできなかったこの小さな少女は、専用に用意された小さめの馬車の中で寝息を立てている街の門と森の中間に差し掛かった時、ドラゴマンが馬車の荷台をコンコンとノックした周りの仲間はその光景を不思議そうに眺める反応がないことを確認し、もう一度ノックしながら声をかけた「おーい坊主。別に怒りはしねえよ。狭くてガタガタして痛えだろ?出てこいよ」仲間達がギョッとして顔を見合わせていると、荷台の蓋が内側から開き、幼い少年が顔を出した昨日の少年だ「信用できなかったからってついてくる根性は大したもんだ」頭をボリボリと掻きながら瓶を放る受け取った瓶を訝しげに見つめる少年に苦笑いしながら説明...2022.06.09 09:07
28.呪いの器④水晶にヒビが入る大きな音が合図だったかのように、先ほどまで気配の無かった扉の外からノックの音が響く「バアさん、入るぞ」気の抜けた若い男の声だった全身黒尽くめの男が返事を待たずに顔を出すと、来てるな、と満足そうに呟いた「持ってこれたのかい」魔女はあっけに取られる少年たちに目もくれず、男の手からぶら下がる1本の瓶を見ながら話を進める男も気に留めずにああ、と返事をして少年に瓶を押し付けた少年が目を白黒させながら魔女と男を交互に見ると、魔女はやっとこちらを見て、言った「これが私にできる最大限の力添えさ」「バカ言え、用意したのは俺だろ」男がため息混じりに発した言葉は母親の絶叫にかき消される「ミントエーテルなんて…この子はまだ5歳ですッ!身体的...2022.06.09 09:05
27.呪いの器③用事が思ったよりも早く済んだリーダーの少年は、いつもの集合場所へ急いだ自分がいないと、あの少女が無理を言って大変なことをしでかすかもしれない何か嫌な予感でザワザワする案の定いつもの場所に彼女たちの姿はなかった少年は普段の彼女の言動を思い出す何度か森に探検にいきたいと言っていた気がするが、まさか…少年が森の入り口に向かって走っていると、向こう側から見慣れたシルエットの集団が走ってくるのが見えた先行している小柄な少年が大声で助けを呼んでいるようだ少女の姿が見えないが、どうしたんだろう胸騒ぎが激しくなるのを感じつつ、少年は足を速めた少女を自宅まで運び込んだ時、変わり果てたその姿を見た母親は顔を真っ青にして駆け寄った服から覗く地肌は硬い体毛...2022.06.09 05:14
26.呪いの器②森に入ってみたはいいが、何か目的があって来たわけでもない彼女たちはただただ歩けそうな道を辿って奥に進んでいくことしかできなかった幸運にも歩きやすいような道が1本通っており、それほど苦労せずに歩くことができている「そろそろご飯にしようよ…」太陽の光が届かない森の中では時間の感覚が狂うものだが、太っちょの腹時計は正確である太っちょの腹時計に絶大な信頼を置く悪ガキたちは、この時ばかりは太っちょに従うのだ太っちょの進言のあとの彼女たちの目的はお弁当を広げることができる広場を探すことに置き換わっていた少女の腹も不満げに唸りをあげ始めた…ちょうどいい広場があればいいのだけれど…全員が空腹に耐えかねて口数が減ってきた頃、ちょうどよく開けた場所に出...2022.06.05 12:16
25.呪いの器①陽の光がほとんど届かない鬱蒼とした陰気な森この森の伝説は、王国内のほとんどの人間が寝る前に聞かされて育つ普通であればその不気味さと危険さゆえに大人でも近づくことはほぼないしかし第二次魔獣災害とそれを鎮めたヒーローズの武勇を多感な時期に間近で見聞きした子供たちはの中には、度を越えた勇敢さと好奇心を持つ者もいたーーーーある日少女はいつもの通り近所の悪ガキ仲間達と冒険にいく約束をしていた。今日は口うるさいお兄ちゃんがいないことが、少女の足取りを軽くしていた少女が思いつく冒険やいたずらはことごとくリーダーである近所のお兄ちゃんに却下されている理由は危ないから、だ今日はお兄ちゃんはお仕事で遊びにこられないらしいリーダーは生まれてすぐに父親を亡...2022.06.05 10:15
24.獄炎に魅入られし者⑤足元を焦がしながら現れたのは、怯えて腰を抜かす石工の青年にどこか似た面影を残す人型の岩のような異形の姿だった寝息のような静かな呼吸音が一定のリズムを刻み、こちらを見た…ような気がしたその岩人形はゆっくりとあたりを見回すと、切り倒された木々の方に向き直り、くぐもった悲鳴のような雄叫びをあげて材木屋の方へゆっくりと歩みを進める急に発された不愉快な音に我に帰った護衛の戦士が走り寄りざまに剣を振り抜くが、鈍い金属音と同時に飛び散ったのは岩の破片ではなく液体化した金属だった先ほどまでそこにあったはずの剣の鋒を見つめる戦士驚愕で隙だらけになったその頭部を、岩人形の腕が無造作に振り抜かれる戦士の首から下は、まだ頭があるかのように2歩ほど後ずさった...2022.06.05 08:40
23.獄炎に魅入られし者④青年は森の奥にあるという妖気のこもるその石材にすっかり魅入られてしまい、あちらこちらで情報を集めたしかし当然獣の森に入って生きて帰った者はおらず、嘘とも真実ともとれないような眉唾の逸話が複数集まるだけだった酒場で落胆していると、近くに座る商人の一団が森に入るという話をしているすぐさま飛びつき詳しく話を聞くと、やはりこの商人達も森の奥にある獣の死骸からとれる宝を求めて森に入るという事情を説明して同行を頼み込む青年が有名な石工の家系だと知ると、商売の匂いに敏感な商人はすぐさま青年の同行を歓迎した明日の朝出発するということで、青年は飛び跳ねながら家路につく森の入り口は想像以上に不気味な雰囲気が漂っていた他の場所ではみられないような植物が鬱...2022.06.05 06:32
22.獄炎に魅入られし者③石工の青年は書斎の奥で見つけた見慣れない本を手に取った先祖の秘伝の技術が記されたものかもしれない本に吸い寄せられるように、青年は表紙を捲った○/△ 城に呼び出されちまった…何かしでかしちまっただろうか、記憶にはないが…細々石工をやっている俺が城に呼ばれるなんて一体何をやらかしたんだ…息子もまだ小さい。斬首だけはどうにか免じてもらわねえと…○/◇ 正直驚いた。お忍びで一度俺が仕事をしているところを通りかかったことがあって俺の仕事をえらく気に入ってくれたらしい別の意味でヒヤヒヤしちまったが、魔物との戦いで被害を受けた街の修繕が必要だからうちに頼みたいってことらしい声はうわずっちまったが、こんな光栄なことはないどうやら本の内容は当家の初代...2022.06.05 05:54
21.獄炎に魅入られし者②王国には代々至高の腕を持つ石工の家系がある次期当主となる青年は父や先祖を越える歴代最高の石工となることが夢だった青年は研究熱心で、先祖が生み出した技術に自ら編み出した工夫を加え、次々と革新をもたらしていったそんな彼を周りは天才だと持て囃したが、本人は貪欲に技術を追い求め、研究に没頭していたそんな折、先祖たちが手がけた王国中の建物が近々大規模に補修されることが決まった第一次魔獣災害によって、堅牢な石の都が一夜にして滅んだとされる実際これは伝説や昔話のように真偽が定かでない話と違い、今も廃墟と化した街並みは残っている幸いにも第二次魔獣災害でも王国は大きな被害を受ける前にXヒーローズが事を鎮めてくれたが、それでも全く被害がなかったわけでは...2022.06.05 05:02