石の反応「この辺りで反応が…?」ドラゴマンは街道からずいぶん離れた草原で足を止める石の反応が止んだのはこの辺りだろうキョロキョロと見回しながら進んでみるそれにしてもこんな夜更けの草原で野獣の1匹も気配を感じないのが不気味だった肉食獣の1頭でも姿を見そうなものだが…少し背の高い草むらを通り過ぎた時、漸く不自然な音が聞こえてきた「やあ…お待ちしてましたよ」声色からずいぶん余裕を感じる。夜闇に浮かぶシルエットは随分と鍛えられたの男のようだが、若干のバランスの悪さに違和感を覚える「待っていただと?」男の言葉に疑問が浮かぶ。ドラゴマンがここに向かっていることを知っていたとでも言いたげだ「ええ、とある存在と、この子達から…」男がそう言った瞬間、月が雲間...2022.06.26 13:06
魔獣使い騎士たちが引き上げたあとに残されたのは、立ち上がることすらできないほど痛めつけられた商人だけとなった魔獣捕獲用の罠は騎士団が回収したらしい表向きには危険物の撤去だが、おそらく今後も魔獣狩りで使うためだろう騎士団がここを去って数刻経っても、本来ここで生活をしていた野獣たちは姿を見せていなかった街道から離れたこの辺りは人通りが少ない。野獣もうろついているのに、これといった用もないのにわざわざここで足を伸ばす必要がないからだ通常であれば何事もなかったかのように彼らは戻ってくるはずである不思議ではあったが、すぐに立ち上がることのできない商人にとっては不幸中の幸いに思えた尤も、この悪運が味方していなければ彼は過去の人生で何度も命を失っていたは...2022.06.26 07:23
動揺、どうしよう「おいジェイ!生きてたのか!」聞き慣れない声がする方を向くと、やはり見慣れない男が駆け寄ってくる心配してくれているようだが、相手もなかなかにボロボロだどうやらこの男とジョニー(今はジェイと呼ばれているらしい)は共に何かと戦っていたところのようだ「流石は救世のヒーロー様ってところか…」男が構え直す方向へ目を向けると、空から1人のヒーローが降り立つところだった白い鎧、白い髪、そして異様に白い肌。右腕だけが深い濃紺と紫が混ざったような禍々しい色をしており、不気味さを強調しているようだ「空気が薄くて敵わんな…瞬殺されて天国にいっちまっても気づけないかもしれん」最高の冗談を言った後のような清々しい顔をこちらに向けてくる男。知らんがな。必死に状...2022.06.26 05:36
祖母の教え与太話である人間は生前の行いによって死後が決まる王国神話が浸透していない地域で生まれた祖母は、幼い頃のジョニーによくこんな話をしてくれた今目の前にある出来事は前世…つまり転生前の行いで決められたものである来世のために今を清く生きよ、と幼い頃からこの祖母の教えに従い、周りの困っている人を助けてきた下心ではあったが、祖母は下心があってはいけないなど一言も言っていなかったので問題ないだろうとにかく彼は徳を積むように生きてきたのだヒーローとなるため訓練兵に志願したのもそういった背景が影響しているのだろうしかし実際に訓練兵となってみて内側から見たその世界は理想とかけ離れたものだった利権、欲望、嫉妬いつしかあの頃の純粋な想いは邪魔な荷物となって...2022.06.26 04:58
ジョニーという男ジョニーは血の混じった唾を吐き捨て舌打ちをしたあの下品な小隊長の元に訓練兵として配属されてからというもの、生傷が絶えない王国の軍は騎士爵、正規軍、候補軍、一般兵軍という段階があり、候補軍はヒーローとなるための専用の基準を満たした少年兵から構成されている騎士爵は貴族や王家から授かった準貴族としての称号で、基本的には戦場へは出ない戦場で動く指揮系統としては正規軍と一般兵で基本構成があり、一般兵は民間からの志願兵のことであるそして訓練兵も実戦訓練のために一般兵として小隊の指揮下に入り有事の際に動員されるのだしかし才のある訓練兵をよく思わない一般兵は多い。嫉妬に狂い”しごき”でストレスを発散する明るく軽い性格のジョニーも、このしごきにはさす...2022.06.26 04:33
魔獣商②ドラゴンの幼体は最上の商品だったあの馬鹿どもが無駄に痛めつけてしまったようで、弱っていたがまあ…それでも欲しがったわけだからあとは客の責任である「それにしても王国騎士団の人間がドラゴンの幼体なんてどういう…調べてみましょうか…」裏市場の人間にはある程度顔が利く。裏市場の有力者にとって彼は優良顧客でもあるのだ少し調べただけである程度予想がついた王家はヒーローズの力に頼りきっているため体裁は保てているが、政治に関してはガタガタだったそれでも表沙汰になるまで数十年は守り通せるだろうが、またあの時のような災害が起これば一気に瓦解するのが目に見えているそれを察した軍部がヒーローに次ぐ広告塔としてドラゴンを利用しようとしている…そんなところだろ...2022.06.26 03:23
魔獣商王都の裏通りここは表の市場では流通しないような品物が売買される形の崩れた農作物、銘刀の柄、割れた宝石などガラクタが流通する、裏市場しかし陽の当たらないこういった場所では後ろ暗い品々も闇に紛れて売買されている亞人の奴隷、魔剣、曰く付きの宝石など中でも一際珍しいのは何といっても魔獣だろうそんな希少な魔獣を専門に扱う奇特な商人がいた今日の裏市場は彼の仕入れた商品の話題で持ちきりだ「御免。貴殿が魔獣の商人か?」彼の目の前に、おそらく王国騎士団の中でも上位職であろう立派な装備で身を包んだ男が3名どう見てもこの裏市場の雰囲気に見合わない人種だ「アンタがたのような表の人たちが来る場所じゃないですよ。ここはね、貧乏人と弱者のための市場なんだ。そんな...2022.06.25 14:55
目覚め「あァ…ジェネライトが…悲しんでる…泣いてるようだよ…」恍惚とした表情で幼馴染に似たそいつが呟くドラゴマンは薄れゆく意識の中で、自分を貫いたその剣に触れたーーードクンジェネライトの拍動で全身が一度跳ねるーーードクン無意識に剣を握る奴の右手を掴むーーードクン「さっきの話だがよ…ヒーローがあいつを殺したんだな?」こぼれ落ちていったはずの生命力が戻ってくるのを感じる「お前はあいつを食ったと言ったな?」崩れかけた膝にもう一度力を込め直す「答えろ!!!!!」叫ぶと同時にジェネライトの光が溢れ出し、2人を包む光に飲まれる直前、奴の顔は嬉しそうに歪んでいた光がドラゴマンの体に収束していくと、右腕を失った奴が数歩後ずさったその右腕を掴んで、立ち上が...2022.06.25 14:15
予感柔らかな日差しで目を覚ます滅んだ村とは思えないほど穏やかな朝だ少し村の様子を見て回ろうと宿屋だった廃墟を出た時だったブブブブブブブ…と、胸に下げた石が振動を始める「なんだ…?」驚きながら石を取り出すと、不思議なことにほんの少しだけ引っ張られる感覚があった「反応があったってことが…ジェネライトの暴走が」謁見のあとネビュロから石の機能について説明があったかざした相手のジェネライトの色を判別すること、そして暴走するほど高まったジェネライトに反応し、持ち主をそこへ導くことの2つだおそらく場所は中央地域の北部あたりだろうか?小さな亀が糸を引っ張る程度の強さではあるが、大体の方向は掴める廃墟の探索はまた別の機会にするとして、反応のある方へと足を...2022.06.25 09:26
英雄の威を借る「ヒヒ…これで3人目ですねぇ…」「ジェネライトが弱すぎて話にならん。あのお方の望まれるような人間はいつになったら罠にかかるのだ…」エクシドの村から東に2日ほどの小さな村で、派手な装備を身につけた4人組が話している一見ヒーローのようなその外見で口からはみ出しているのは人間の指「しかしあの本に書いてあった通りに行動するだけでこんなに上手くいくとはな…」赤い鎧の男が片手で開いているのは、王国が先般出版した子供向けの絵本だったヒーローがドラゴンを討伐する逸話を子供向けにまとめたもので、その人気は絶大らしい「それにしてもあの村、もったいなかったですね。金目の物も探せなかったし、鍋にぶちこんだ頭も食いそびれてしまった…」頭髪を刈り上げた魔法戦士...2022.06.25 08:40
騎士に憧れた少年少年には生まれつき目が不自由な妹がいた妹は兄を慕い、兄も妹を可愛がっていた妹は兄が読み聞かせてくれるヒーローの活躍のお話が大のお気に入りで、暇があればそれをねだった兄自身もヒーローに憧れ、強い男になろうと決めていたしかし訓練を重ねても重ねても、どうしてか弱々しい身体は強くなることはなかった妹は兄の頑張りを知っていたので、きっと強く正しいヒーローとなるものだと信じている「こんなに頑張ってるんだもん、お兄ちゃんがヒーローになったら悪い魔獣をみーんなやっつけてくれるもんね!この町の人たちも魔獣に怯えなくて済むね!」訓練のあと、妹は必ず彼にこう熱っぽく語りかける少年は妹をがっかりさせないように、当たり前だろ!と応えるのがいつもの流れだった身...2022.06.25 08:08
帰郷「何だよこれ…おかしいだろ…っ!」ドラゴマンは襲いくる獣たちを捌きながら誰にともなく怨嗟の声を漏らした幸運にも森でマヨヒガに再会することはなかったが、山に足を踏み入れた瞬間に前回はおとなしかったはずの獣たちが襲ってきたのだ前回との雰囲気の違いに気づいてから、ドラゴマンは警戒をやめ最短ルートで出口を目指す昼も夜もなく襲いかかってくる魔物を退けながら、夜通し進み続けた歩き続けて数日が経ち、今は廃墟群となったかつてのアムの故郷が見えてきた時、やっと自分が生きて山を降りられたことに気づくあれから一月ほどしか経っていないにも関わらず、随分と昔のことのように思えるドラゴマンに下った命は大陸全土の強者のスカウトだ西側はすでに数名のスカウトが活動を...2022.06.25 07:04