北へ乗り捨てても構わないと言ってエコーが用意してくれた馬は疲れるとこを知らないのか、日の出前に出発して今に至るまで走り続けている太陽は既に高く昇っており、何よりもドラゴマン自身が休息を欲した北の街では美しい顔をした辻斬りが出ると商人が困り果てていた湖の近くではドラゴンが出たと大騒ぎらしいどちらも調べてみる価値はありそうな噂だ漸く休息をとり、革製の水筒から水分を補給する「さて…どっちを当たるべきか…」エコーの馬は落ち着かなそうに足踏みをしている聞けば獅子と同様召喚で呼び出す精霊馬の一種だという物質界の餌などは必要としないが使役する者の魔力を少しずつ吸い取るらしい乗り捨てても精霊界に還るだけだが、帰りは徒歩になるだろう「帝国の勢力外の街だ。...2022.07.09 09:58
ヴィランズ兵団「ドラゴマン殿、入室!」門兵が中に知らせるための銅鑼を打ち鳴らし、巨大な扉を押し開きながら叫ぶだだっ広い謁見の間を奥に進み、中程まで来て跪く「いつもいつも儀礼に従わせてすまないな」微塵も感じていなさそうに足を組んだままのヴィリスが言葉をかけてくるドラゴマンはそれを合図として顔をあげた今日はヴィリスの子らーーランスとヴィスタの姿もある「ーーして、何か?お前の連れを鍛えろと?」「以前に陛下は魔獣災害をも上回る災厄が近いと仰せでした。私は今お預かりした石の力でジェネライトの反応が強い者を集めています。陛下の勅命にて」ふむ、とだけ発し、続きを促すヴィリスだが子供達は初耳だったようで互いに目で何かを語り合ったようだーーー以上、と成り行きを説明...2022.07.09 08:25
アムの魔力アムの話はこうだ毎晩同じ、あの日の悪夢を見ていた無力な自分を呪い、毎日毎日あの惨劇を最後まで見守ることになる涙も枯れ果て、村の誰が殺されても何の感情も湧いてこなくなった頃、悪戯に尊大なヒーローを黒い炎が包む姿を想像した…というよりもそうなることを望んだという方が正しいだろうするとたちまち夢の中でヒーローが漆黒の炎に包まれ苦しみ出したヒーローを皆殺しにすることで夢はそこで途切れるようになり、試しに1人でも残してしまうと怒りに狂ったその1人によって同じ結末にたどり着く不思議な感覚だ…アムは思ったというそしてある日、ランジュとスミスが訓練で出払っている時にあることを試してみる夢での感覚と同じように目についた拳ほどの大きさの石に燃えるように...2022.07.09 03:39
近況ランジュは今にも不満が爆発しそうだった帝国へ来てからというもの、若い兵士たちと同じ訓練に付き合わされているのだが、それが退屈すぎた普通の人間達とは違い、ランジュやスミスの武器は体そのものである鎧を着て剣や槍で武装していても相手にならなかった「あいつらの訓練にはなるかもしれないけどさあ…私全然強くなった気がしないんだけど…」同じく訓練から帰ったスミスに愚痴をこぼす「仕方がないだろう。俺たちが初めて本気で訓練した時のことを忘れたのか?」スミスが窘めると、ランジュは黙るしかなかった帝国に来てドラゴマンが仲間探しの旅に出てしまったあと、ヴィリス皇帝の好意でスミスと本気で模擬戦をした時のことだ「大変失礼なこととは存じますがお二方…訓練場が使い...2022.07.09 03:05
山を降りて憎きあの女最後に見たのは恐ろしいほど美しい女の顔しかしなぜ憎いのか…何があって今自分がこうしているのかはわからない急速に覚醒する意識は残すべき記憶とそうでないものを高速で選り分けているようだぼんやりと目を開ける視界はあの時のとは違って赤くない「おっ、本当に気がつきやしたね!旦那ー!」男の声だ。口調は軽薄だ。この手の人間は信用ならない真っ青な空と流れる雲を眺めながらそんなことを考える思考の整理に意識が追いついていないのか、ずっと頭に満ちていた靄は未だ晴れる気配がない急に黒い龍を象った兜を被った男の顔が視界を遮る「気がついたか、オラン山の獣」先ほどの声とは違う。高くも低くもないが少なくとも先ほどの声の主よりは信用できるだろう「獣…?オレ...2022.07.08 14:35
ナレノハテ生暖かい感触に意識がぼんやりと目覚め始めるあたりはずいぶんと騒がしい(あんだァ?ずいぶんと…)視界は真っ赤で何も見えない。体の自由は利かない。体に何かがぶつかる感覚『バケモノ!出ていけ!』この声は聞き覚えがある。村の子で、名前は…『バケモノ!デニーから離れろ!』周囲には他にも誰かいるようで、口々に罵声を浴びせてくる(バケモノ…?オレが…?……デニー…デニー…どこかで聞いた名だ…)視界が少しずつ開けてくる。赤く靄がかってはいるが、少しずつ周囲の状況が見えて来た見覚えのある顔が恐怖に歪み、手に手に石を投げつけてきていた(おい、なんでみんなオレに石なんて…)批判を口に出したつもりだったが、代わりに聞こえてきたのは獣の唸り声だけだった(何な...2022.07.08 13:59
アンドレイという男「アンドレイ、ちょっと手伝っておくれよ」「おうよ」「あんちゃん、遊んでよ!」「おうよ」アンドレイという若者は、村の者から大層慕われていた若い男衆は多くが魔獣から街を護るために村から引き立てられていった今この村に残るのは多くが年寄りだった体の弱い妻と両親の介護のために徴兵を免れたのだが、それが男衆を失った村の人々に対しての負い目となっていたもちろん村のもの達がアンドレイを責めることはない彼はよく働き、皆に頼られ慕われ、そして家族の面倒をよく見ているのも皆知っていた「もし…」魔獣が大量に発生し、街道から旅人の姿が消えて久しいそんな中で長いローブに身を包んだ1人の旅人がアンドレイに声をかけてきた「あんだァ?あんた、旅人か?珍しいじゃねえか...2022.07.07 15:32
獣突き出された腕は真っ直ぐに向かってくるこのまま振り抜いて胴体に剣を食い込ませても致命傷になるかは難しいところだ逆に獣の爪は自身の首を掻き切るだろう差し違える気は毛頭ない。一太刀目でダメージを与えるのを早々に諦め、右に体を逸らした獣の腕はドラゴマンの居た地面を豪快に抉り、巨体が勢い余って通過していく二度ほど転がり構え直す頃には獣が第二撃を狙って飛び込んできているところだった獣とは別の気配を察知し反撃に出ず跳び退ると、エコーの呼んだ獅子が第二撃後の隙だらけの獣に踊りかかるエコーは獅子をけしかけると、獣の様子を観察していた対象を手懐けるには心を通わすか屈服させる必要がある獅子と出会ってからは動物の考えていることが少しだけわかるようになって...2022.07.07 14:26
獣の正体「人間…だと…?」信じられないエコーの一言に詰め寄りたい気持ちを抑え、ドラゴマンは獣に向き直った「まるっきりアタシや旦那と同じってわけじゃありません…たしかに魔獣や獣のニオイもするんですが…強いて言うならベースが人間、というか…」要領を得ない返答だったが、問い詰める余裕はもうない全力で地面を何度か蹴れば一瞬で間合いに入る距離まで奴は近づいて来ていた「つまりそれは何とかなるって希望か?それともどうにもならないって諦めか?」正眼に剣を構えながら背後にいるエコーに問いかける歩行時より体勢が低い。いつでも飛びかかって来られるだろう「わかりやせんが…もしかするとテイムしても効果がないかも…」最悪の返答だったまだ絶望を突きつけられた方がマシだチ...2022.07.06 15:20
獣、再びプリヴダを後にしたドラゴマンたちは再び西の地に向かうべくオラン山脈を越えようとしていたエコーを仲間に引き入れ、自身の力も格段に上がったとは言え、ランジュやスミス無しに獣と相対することには不安があったエコーにも事前に注意をしてある。彼に従う獅子でさえあの強靭な獣と戦って無事で済むとは思えなかった「聞いてないっすよ…」青ざめたまま固まるエコーを横目に、ドラゴマンは先に進みながら言う「こっちに渡って来た時は遭遇しなかった。ランジュやスミスの獣由来のジェネライトにでも反応していたんだろう。俺たちだけならきっと大丈夫だ」それは自分自身に言い聞かせる意味もあったが、魔獣使いは安堵したようにとぼとぼとドラゴマンの後をついてきた何事もなく2日かけて...2022.07.06 14:56
魔女の計画西の魔女と恐れられる女がいた名はスガラメルデオラン山脈の西の麓を覆うジュオンの森に住むというその魔女は500歳とも1000歳とも噂されており、第一次魔獣災害の折、初代ヒーローズを支えその平定に力を貸したとさえ言われている従順な執事を1人従えており、彼もまた不死の者と噂されている「オッド。」不機嫌そうに自分を呼ぶ声に、執事は臆することなく笑顔を向ける「どうされましたか?」「どうされましたか?じゃない。山の獣が最近静かなのはどういうことなの?」オラン山の獣は数十年前、ある計画のために魔女が創り出した生き物である神話の獣を復活させようと試みる中で、近隣の村の若者を犠牲にしてオランの山に住む獣は魔獣ではないが、魔獣が本能的に避けるほどの強さ...2022.07.06 12:56
悪意の刃⑤「随分と遅かったじゃないっすか旦那…」城門は内側から難なく開くことができたどうやら扉の外側にのみ不可侵の呪いがかかっていたようだ城門があまりにあっさりと開いたことに呆然としながら外へ出ると、ボロボロになって座り込んだエコーが息を切らしながら恨言をぶつけてきたのだった「で、お望みのものは見つかったんですかい?」悠然と寝そべる黒い獅子にもたれながら呑気に問いかけてくるエコーに、ドラゴマンはどう答えるべきか一瞬、言葉に詰まった「なんですかいその微妙な反応は…」疲れ果てて苦笑するその顔を見据えながら、玉座の間で見つけたクリスタルのことを語って聞かせたそして、クリスタルの中のムルス王子のことも「第二次魔獣災害以降に施された封印…クリスタルに標...2022.07.04 14:41