悪意の刃④「驚いたな…」ドラゴマンの見上げた先には巨大なクリスタルが固定されている中央に張られた古びたロープやまばらに貼られたボロボロの紙がどこか禍々しいどうやら何かを封印するための処置らしい石があのクリスタルを示しているのは間違いないようだ「なんでこんなところに…」ドラゴマンがクリスタルに近づくと、それに反応したかのように脈動のような明滅を始めたそのクリスタルの中に囚われていたのは、イヴルスという魔剣に魅入られ、この国を滅亡に導き、そして姿を消したと言われているムルスその人であった平和だったクリプト大陸を史上2度目の魔獣災害が襲った時期、この小国プラヴダでその事件は起こった第一王子であるムルスが突如として父親である国王と王妃を殺害国王の死、...2022.07.03 14:44
悪意の刃③ズン、と腹に響く音をたてて扉は再び閉じてしまった内側で待ち伏せる敵にも警戒していたが、その心配は無用だったようだ騎士はゆっくりとした足取りでこちらへ迫ってきている「エコーの野郎、間に合わなかったな?」舌打ちと共に2本の剣を構えると、騎士も緩慢に立ち止まって大剣を構えた魔力によって動いている鎧だ。先ほど獅子が持ち帰った死体と同じ原理だろうが、ヒシヒシと漏れ出る魔力はその比ではないエコーも外に締め出されてしまった以上、あまり時間はない悠長に戦いを楽しんでいる暇はないか…振り下ろされた大剣を避けながら、ドラゴマンは少しだけ残念に思った「あーあ…どうすんすかこれ…」一方、締め出されたエコーは目の前で閉じた扉に触れながら茫然としていたドラゴマ...2022.07.03 13:02
悪意の刃②漂う死の気配何年も人の手が入っていないはずの城門は固く閉ざされ、久方ぶりの来客を阻む本当に億劫なことだ、と心の声が漏れてしまう「魔力ですなァ。お知り合いの帝国のお偉いさんに破城槌でも持ってきてもらったらどうです?」エコーは心底楽しそうに揶揄うが、できることならドラゴマンもそうしたいくらいだったもっとも、魔力に守られた頑丈な城門を普通の攻城兵器で破ることができるのかは甚だ疑問ではあったが腕組みをして途方に暮れているドラゴマンの目の前に、突如真っ黒の物体が降ってきた音からするとかなり重いものだろう見上げるとエコーの相棒である黒き獅子が戻ってきていた「ご苦労さん」ドラゴマンは一言獅子を労うと、獅子が持ち帰ったそれを調べるためにしゃがみ込ん...2022.07.03 13:01
悪意の刃ポリゴネアの小国のひとつ、プラヴダコンラット王の盟友であるプラヴ王の内政は国民からの支持も高く、善王善政であると評判であった先の第一次魔獣災害においても最小限の被害で済んだのは、コンラット王の庇護のみならず、善政を敷くプラヴ王の人徳により国民が士気高く勇猛に国防に臨んだ結果であると歴史書にも記されているそんな繁栄の歴史を辿っていたプラヴダ国も今となっては死の土地とされ、近寄る者は多くはないその滅亡の原因はプラヴダの第一王子にあるらしい第二王子であるレムは第二次魔獣災害においてヒーローとして選ばれ、今やポリゴネアの英雄の一人に数えられている以上が一般的に知られているプラヴダに関する情報の全てである石の反応が示すのはここ、プラヴダ国跡地...2022.07.03 12:59
石の反応「この辺りで反応が…?」ドラゴマンは街道からずいぶん離れた草原で足を止める石の反応が止んだのはこの辺りだろうキョロキョロと見回しながら進んでみるそれにしてもこんな夜更けの草原で野獣の1匹も気配を感じないのが不気味だった肉食獣の1頭でも姿を見そうなものだが…少し背の高い草むらを通り過ぎた時、漸く不自然な音が聞こえてきた「やあ…お待ちしてましたよ」声色からずいぶん余裕を感じる。夜闇に浮かぶシルエットは随分と鍛えられたの男のようだが、若干のバランスの悪さに違和感を覚える「待っていただと?」男の言葉に疑問が浮かぶ。ドラゴマンがここに向かっていることを知っていたとでも言いたげだ「ええ、とある存在と、この子達から…」男がそう言った瞬間、月が雲間...2022.06.26 13:06
魔獣使い騎士たちが引き上げたあとに残されたのは、立ち上がることすらできないほど痛めつけられた商人だけとなった魔獣捕獲用の罠は騎士団が回収したらしい表向きには危険物の撤去だが、おそらく今後も魔獣狩りで使うためだろう騎士団がここを去って数刻経っても、本来ここで生活をしていた野獣たちは姿を見せていなかった街道から離れたこの辺りは人通りが少ない。野獣もうろついているのに、これといった用もないのにわざわざここで足を伸ばす必要がないからだ通常であれば何事もなかったかのように彼らは戻ってくるはずである不思議ではあったが、すぐに立ち上がることのできない商人にとっては不幸中の幸いに思えた尤も、この悪運が味方していなければ彼は過去の人生で何度も命を失っていたは...2022.06.26 07:23
動揺、どうしよう「おいジェイ!生きてたのか!」聞き慣れない声がする方を向くと、やはり見慣れない男が駆け寄ってくる心配してくれているようだが、相手もなかなかにボロボロだどうやらこの男とジョニー(今はジェイと呼ばれているらしい)は共に何かと戦っていたところのようだ「流石は救世のヒーロー様ってところか…」男が構え直す方向へ目を向けると、空から1人のヒーローが降り立つところだった白い鎧、白い髪、そして異様に白い肌。右腕だけが深い濃紺と紫が混ざったような禍々しい色をしており、不気味さを強調しているようだ「空気が薄くて敵わんな…瞬殺されて天国にいっちまっても気づけないかもしれん」最高の冗談を言った後のような清々しい顔をこちらに向けてくる男。知らんがな。必死に状...2022.06.26 05:36
祖母の教え与太話である人間は生前の行いによって死後が決まる王国神話が浸透していない地域で生まれた祖母は、幼い頃のジョニーによくこんな話をしてくれた今目の前にある出来事は前世…つまり転生前の行いで決められたものである来世のために今を清く生きよ、と幼い頃からこの祖母の教えに従い、周りの困っている人を助けてきた下心ではあったが、祖母は下心があってはいけないなど一言も言っていなかったので問題ないだろうとにかく彼は徳を積むように生きてきたのだヒーローとなるため訓練兵に志願したのもそういった背景が影響しているのだろうしかし実際に訓練兵となってみて内側から見たその世界は理想とかけ離れたものだった利権、欲望、嫉妬いつしかあの頃の純粋な想いは邪魔な荷物となって...2022.06.26 04:58
ジョニーという男ジョニーは血の混じった唾を吐き捨て舌打ちをしたあの下品な小隊長の元に訓練兵として配属されてからというもの、生傷が絶えない王国の軍は騎士爵、正規軍、候補軍、一般兵軍という段階があり、候補軍はヒーローとなるための専用の基準を満たした少年兵から構成されている騎士爵は貴族や王家から授かった準貴族としての称号で、基本的には戦場へは出ない戦場で動く指揮系統としては正規軍と一般兵で基本構成があり、一般兵は民間からの志願兵のことであるそして訓練兵も実戦訓練のために一般兵として小隊の指揮下に入り有事の際に動員されるのだしかし才のある訓練兵をよく思わない一般兵は多い。嫉妬に狂い”しごき”でストレスを発散する明るく軽い性格のジョニーも、このしごきにはさす...2022.06.26 04:33
魔獣商②ドラゴンの幼体は最上の商品だったあの馬鹿どもが無駄に痛めつけてしまったようで、弱っていたがまあ…それでも欲しがったわけだからあとは客の責任である「それにしても王国騎士団の人間がドラゴンの幼体なんてどういう…調べてみましょうか…」裏市場の人間にはある程度顔が利く。裏市場の有力者にとって彼は優良顧客でもあるのだ少し調べただけである程度予想がついた王家はヒーローズの力に頼りきっているため体裁は保てているが、政治に関してはガタガタだったそれでも表沙汰になるまで数十年は守り通せるだろうが、またあの時のような災害が起これば一気に瓦解するのが目に見えているそれを察した軍部がヒーローに次ぐ広告塔としてドラゴンを利用しようとしている…そんなところだろ...2022.06.26 03:23
魔獣商王都の裏通りここは表の市場では流通しないような品物が売買される形の崩れた農作物、銘刀の柄、割れた宝石などガラクタが流通する、裏市場しかし陽の当たらないこういった場所では後ろ暗い品々も闇に紛れて売買されている亞人の奴隷、魔剣、曰く付きの宝石など中でも一際珍しいのは何といっても魔獣だろうそんな希少な魔獣を専門に扱う奇特な商人がいた今日の裏市場は彼の仕入れた商品の話題で持ちきりだ「御免。貴殿が魔獣の商人か?」彼の目の前に、おそらく王国騎士団の中でも上位職であろう立派な装備で身を包んだ男が3名どう見てもこの裏市場の雰囲気に見合わない人種だ「アンタがたのような表の人たちが来る場所じゃないですよ。ここはね、貧乏人と弱者のための市場なんだ。そんな...2022.06.25 14:55
目覚め「あァ…ジェネライトが…悲しんでる…泣いてるようだよ…」恍惚とした表情で幼馴染に似たそいつが呟くドラゴマンは薄れゆく意識の中で、自分を貫いたその剣に触れたーーードクンジェネライトの拍動で全身が一度跳ねるーーードクン無意識に剣を握る奴の右手を掴むーーードクン「さっきの話だがよ…ヒーローがあいつを殺したんだな?」こぼれ落ちていったはずの生命力が戻ってくるのを感じる「お前はあいつを食ったと言ったな?」崩れかけた膝にもう一度力を込め直す「答えろ!!!!!」叫ぶと同時にジェネライトの光が溢れ出し、2人を包む光に飲まれる直前、奴の顔は嬉しそうに歪んでいた光がドラゴマンの体に収束していくと、右腕を失った奴が数歩後ずさったその右腕を掴んで、立ち上が...2022.06.25 14:15