予感柔らかな日差しで目を覚ます滅んだ村とは思えないほど穏やかな朝だ少し村の様子を見て回ろうと宿屋だった廃墟を出た時だったブブブブブブブ…と、胸に下げた石が振動を始める「なんだ…?」驚きながら石を取り出すと、不思議なことにほんの少しだけ引っ張られる感覚があった「反応があったってことが…ジェネライトの暴走が」謁見のあとネビュロから石の機能について説明があったかざした相手のジェネライトの色を判別すること、そして暴走するほど高まったジェネライトに反応し、持ち主をそこへ導くことの2つだおそらく場所は中央地域の北部あたりだろうか?小さな亀が糸を引っ張る程度の強さではあるが、大体の方向は掴める廃墟の探索はまた別の機会にするとして、反応のある方へと足を...2022.06.25 09:26
英雄の威を借る「ヒヒ…これで3人目ですねぇ…」「ジェネライトが弱すぎて話にならん。あのお方の望まれるような人間はいつになったら罠にかかるのだ…」エクシドの村から東に2日ほどの小さな村で、派手な装備を身につけた4人組が話している一見ヒーローのようなその外見で口からはみ出しているのは人間の指「しかしあの本に書いてあった通りに行動するだけでこんなに上手くいくとはな…」赤い鎧の男が片手で開いているのは、王国が先般出版した子供向けの絵本だったヒーローがドラゴンを討伐する逸話を子供向けにまとめたもので、その人気は絶大らしい「それにしてもあの村、もったいなかったですね。金目の物も探せなかったし、鍋にぶちこんだ頭も食いそびれてしまった…」頭髪を刈り上げた魔法戦士...2022.06.25 08:40
騎士に憧れた少年少年には生まれつき目が不自由な妹がいた妹は兄を慕い、兄も妹を可愛がっていた妹は兄が読み聞かせてくれるヒーローの活躍のお話が大のお気に入りで、暇があればそれをねだった兄自身もヒーローに憧れ、強い男になろうと決めていたしかし訓練を重ねても重ねても、どうしてか弱々しい身体は強くなることはなかった妹は兄の頑張りを知っていたので、きっと強く正しいヒーローとなるものだと信じている「こんなに頑張ってるんだもん、お兄ちゃんがヒーローになったら悪い魔獣をみーんなやっつけてくれるもんね!この町の人たちも魔獣に怯えなくて済むね!」訓練のあと、妹は必ず彼にこう熱っぽく語りかける少年は妹をがっかりさせないように、当たり前だろ!と応えるのがいつもの流れだった身...2022.06.25 08:08
帰郷「何だよこれ…おかしいだろ…っ!」ドラゴマンは襲いくる獣たちを捌きながら誰にともなく怨嗟の声を漏らした幸運にも森でマヨヒガに再会することはなかったが、山に足を踏み入れた瞬間に前回はおとなしかったはずの獣たちが襲ってきたのだ前回との雰囲気の違いに気づいてから、ドラゴマンは警戒をやめ最短ルートで出口を目指す昼も夜もなく襲いかかってくる魔物を退けながら、夜通し進み続けた歩き続けて数日が経ち、今は廃墟群となったかつてのアムの故郷が見えてきた時、やっと自分が生きて山を降りられたことに気づくあれから一月ほどしか経っていないにも関わらず、随分と昔のことのように思えるドラゴマンに下った命は大陸全土の強者のスカウトだ西側はすでに数名のスカウトが活動を...2022.06.25 07:04
美しい辻斬り帝国領 北の街魔獣災害以降も穀物などを主力とした交易で比較的早い段階で復興を果たした街であるヴィリスの手腕により、北の厳しい環境でもよく育つ穀物が西側の民の胃袋を満たすようになって久しいしかし最近では商隊の行き来はめっきり減ってしまったたまに来るのは物々しい護衛を多数従えた大手商会のみである最近では旅人の数も少ないその理由は、街へと通じる街道にあった「また商隊がやられたらしいな…」「ああ、ちくしょう…辻斬の野郎のせいで不景気でたまらんぜ」酒場では地元の麦をつかった蒸留酒を片手にこんな愚痴が頻繁に聞こえる「帝国の兵士もやられちまったらしい…」そう、魔獣災害を生き延びた軍人でさえ斬り捨てられるほどの腕前をもった殺人鬼北の街へ通じる一番大...2022.06.25 05:08
魔獣の放浪森の木々は道を開けるように山の入り口まで彼を導く山と森を遮るように何らかの力が作用しているようだったが、難なく通り過ぎることができたただの魔獣だった頃は恐ろしくて近づくことなど考えもしなかったオランの山に足を踏み入れた彼は、漂う殺気に落胆したあれほど恐れていたこの山の獣どもの力はこの程度だったのか…無論、彼女を食い取り込んだ今だからこその余裕ではあるしかし魂が生まれたばかりの彼にそんなことなど理解できるはずもなかった退屈な山道である殺気を向けてくる者ももはやいないたんたんと進んでいたその時「ウヴォオオオアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」彼の気配に気づいたこの山の主だろうか縄張りに立ち入ったことを警告しているのだろうわざわざ探...2022.06.25 04:48
魔獣の鼓動彼は薄暗い部屋の中で目を覚ましたジェネライトが騒がしい彼が本能でのみ暴れ回る魔獣だった頃今となっては記憶も朧げだが…1体の化け物の死体を見つけた長く透き通るような白髪を湛えた頭部はまだ真新しい鎧を着た上半身の数メートル先で転がっている下半身は、今まで彼が見てきた人間のそれとはまったくの別物だった植物の根のように大小様々な触手が、まだ死んで間も無いことを主張しているかのように蠢いている上半身の近くに落ちていた2本の武器の輝きに、魔獣は生まれて初めて『美しい』という感想を浮かべた欲しい明確に、本来ならありえないはずの欲求を認識する本能が、ジェネライトが、そうしろと命じたかのように、魔獣は彼女の死体を貪った白く美しい怪物気づけば四足歩行だ...2022.06.25 04:18
旅立ちヴィリスとの謁見の後、ドラゴマンたちは与えられた部屋で旅の疲れを癒すためにのんびりと過ごしていた仲間達はすでに床につき寝息を立てている最初は警戒していたスミスだが、数日経ちすっかり警戒も解けたらしい。曰く、「あの皇帝はその気になれば俺たち全員を即座に斬り捨てられるだろう。そんな強者がこそこそと寝込みを襲うとは考えられん」ということらしいその晩、珍しく寝つきが悪くバルコニーに出て謁見の日のヴィリスの言葉を思い出していたミントの儀…あの日まではたしかに誰よりも強いヒーローになる自信があったしかし今回の旅の中では、暴走したランジュとスミスの間に割って入ることもできず、ただ伏していただけ森の魔女にはそのランジュとスミスと一緒に戦ってさえ勝て...2022.06.24 16:28
謁見②アムはドラゴマンとヴィリスの会話をどこか上の空で聞いていた(私の…ジェネライトの…色…)村にいた頃に両親からはジェネライトは正義の心、言わば良心と教わっているそんなジェネライトに色などあるのだろうか…ドラゴマンはなぜあんな驚きの表情をしているのかアムがぼんやりと考えていると、退屈してると思われたのだろう。ネビュロがヴィリスに向けて咳払いをひとつそうだった。本題の続きだったな。とぽつりと呟き、玉座にもたれるよう姿勢を変えた「魔獣災害以上の危機が大陸全土に迫っている。仔細はまだ言えぬが、戦力が必要だ。ヒーローズを超えるほどの強大な兵たちが、な」ドラゴマンにとってどこか冷めた印象だったヴィリスが、皇帝として真剣に語った衝撃の内容魔獣災害を...2022.06.24 15:47
謁見①ヴィランズ帝国謁見の間にはあの頃と見違えるようなヴィリスの荘厳な姿があった「久しいな、ドラゴマン」玉座に膝を組み、頬杖をしながらヴィリスから話しかける。声と口調だけはあの頃と同じだったことに、少しだけ緊張していたドラゴマンはひそかに安堵する外せ、と家臣たちに命じると、待機していた家臣や護衛の兵士がざわつく。ネビュロが家臣の1人にフヨフヨと近づき何やら話しかけると、ぴたっと態度を変えた彼らは恭しく一礼し素直に部屋から出て行った部屋に残ったのはドラゴマンたちとヴィリス、そしてヴィリスの座る玉座にとまるネビュロのみ「ご無沙汰しております、皇帝陛下。あの頃のお約束、果たすために馳せ参じました」「堅苦しい言葉遣いはやめてくれよ。お前もそんな柄...2022.06.22 15:17
悪夢③自分の悪運が許せないくらいだったヒーローたちは父の首を刎ね、アムに気付かぬままジニアのいる洞窟の方へ向かっていく夢をみているアムは、首のない父親の下で気を失う当時の自分を客観的に見下ろして、ため息を吐くそして見たくもない、思い出したくもないのに続きを見せられるのだヒーロー達は意気揚々と進むまるで父や村人達をドラゴン退治の前菜として楽しんでいるようだったアムを抱き止めるのに立ち止まった父親を除く数名は必死に逃げていたが、間もなく捕まり、殺されるそして洞窟に到着したヒーローたちは、遠慮もなくズカズカと入っていくのだ何度も何度も見た光景だジニアは必死に抵抗するが、笑いながら嬲るヒーローたちやがてかろうじて胸を上下するだけになった小さな友達...2022.06.20 15:22
悪夢②妙にリアルに思えるのは、この悲劇からそんなに日が経っていないせいなのか、何度も何度も眠るたびに思い出してしまうせいなのか…夢を見ているアムは、何度も何度もはやく悪夢から覚めることを願うしかし今までその願いが叶うことはなかった「ボエボエボエーーーーー」ジニアとじゃれあっていると、唐突に背後から聞き慣れない音が聞こえるーー私はこの音を忘れないアムが振り向くと、ヒーローたちが連れていたフェアリーがボエボエと繰り返しながら村の方へ向かっていくのが見えたーー私に戦う力があればアムは何が起こっているのかわからずぽかんとフェアリーの背中を見送っているーーここであいつを殺すことができていればギュルルルルゥ〜〜〜〜腕の中でジニアが唸っているフェアリー...2022.06.20 14:38