悪夢①ーーーまたこの夢だアムは早々にいつもの悪夢に堕ちたことに気づいた村の入口で村長や村の大人達が鎧を着た集団と話しているアムの住んでいた村はポリゴネア地域の中では異質で、中央正教会ではなくこの地に棲むとされているドラゴンが信仰の対象だった財宝を奪い人を食うと言われるドラゴンだが、この地に伝わるドラゴンは土地の守り神として様々な伝説を残しているそんなこの村を危険視した教会が神殿を建てようと何度も遣いを寄越していたが、結局村に神殿が建つことはなかった「ヒーローまで寄越すなんて…王国はそんなに財宝が欲しいのか…?」そう頭を抱える父の姿がアムの頭から離れない村の伝説ではオラン山脈の一角、龍角山に棲んでいるとされているドラゴンだが、その実ここ数百...2022.06.20 14:22
宮殿にて②守衛達の無礼については不問にしてやってほしいとヴィリスの使い魔であるネビュロに伝えた自身の計画性のなさで他人を巻き込むのは寝覚が悪い。何より彼らは自分たちの仕事を全うしようとしただけなのだ「ホッホッホ…ドラゴマン殿は心が広いお方なのですな」顔の周りを飛び回りながら甲高い声で褒められても鬱陶しく感じるだけであったが、これから世話になる場所でそれなりの地位に就く者だ。表情には出さずに対応する尤も、ランジュの顔は手遅れだったが…「それにしてもずいぶんくたびれていらっしゃいますなァ…それにお連れの皆さまも…ずいぶんと…珍しい…」ネビュロも一応気を遣っているのかもしれない。ランジュやアムには怖がられる可能性を考えて、興味の対象をスミスに絞った...2022.06.19 14:36
宮殿にて①パラッチで買い出しついでに帝国領への道のりを聞いて回った数日も歩けば帝国領へ着くという。馬車なら明日には着くヴィリスが残してくれたものとランジュの両親が持たせてくれた路銀を合わせればその程度であれば何とかなりそうだアムには今の時点でも相当にきつい旅だろう気が張っているのもあって気丈に振る舞えてはいるが、何かあったら一気に体調を崩すかもしれない「最後くらい楽してみるかあ」ドラゴマンが財布から顔を上げて言うと、アムとランジュは抱き合って喜んだやはり相当に無理をしていたらしいスミスは温和な笑顔で少女たちを眺めているあんなにつらいことを経験してきた奴らとは思えないな…そんなことを考えながら、ドラゴマンは御者に金を渡した馬車での旅路は今までの...2022.06.19 09:20
イーサリアへ気がつくとドラゴマンたちは森の出口へ向かっているところだった山を降りて、館へ立ち寄り、森を出るために歩いている記憶がところどころ抜けているが、山を降りてどのくらい経ったのだろうか…仲間達の顔を確かめるほぼ同時に気がついたのだろう、各々ぽかんとしたり不思議そうな顔をしたりしているランジュ、アム、スミス全員、怪我はないようだ少しほっとして前へ向き直ると、森の出口が見えてきたもう何ヶ月も山を彷徨っていたような気分だった目を刺すような直射日光がすでに懐かしいとさえ感じる森を出て立ち止まり、辺りを見回してみたここがオラン山脈に遮られ、忘れられた地、イーサリア住み慣れたポリゴニアからずいぶん遠くまで来たはずなのだが、特段変わり映えのしない景色に...2022.06.19 08:44
西の森の魔女「獣が喋ったっていうのか?そんなまさか…」剣士は即座に否定するたしかに普通に考えれば魔獣が人語を話すことはないだろうしかし、ランジュやスミスのように特異な事情があったら、もしかすると…「さあ皆さま、ここが主人の館です。私は主人に事情をお話ししてきますので、少しの間こちらでお休みください」人当たりのいい笑顔を崩さず、男は館の中に入っていった外から眺めた時は大きいがかなり古びた建物に見えた言葉を選ばなければ廃墟のようだったのに、扉を開けて中に入ってみると外見とはまったく違っている「ずいぶん立派な館だな…」ドラゴマンが外と中の違いに呆気にとられていると、魔法使いがドラゴマンの脇を小突いた「少しばかり魔力を感じる…占い師の婆さんが言っていた...2022.06.19 08:36
下山ドラゴマンたちは獣たちとの戦いを経てくたくたに疲れてはいたが、また襲われるよりはましだと夜通し歩き続けたアムはさすがに生身なのでスミスが担いでいるまるで親子のようでその光景が少しだけ疲れを癒してくれるような気がする時たまランジュやスミスが強ばった表情で後ろを振り返っているもしかすると獣が追ってきているのかもしれない下山の道もだいぶなだらかになってきた出口がおそらく近いのだろうヴォオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!安心しかけた瞬間、懐かしくもないあの咆哮が聞こえた「チッ…何てしつこい奴なんだよ…!」自然と全員の足が速まるクタクタの足さえ恐怖に突き動かされているらしいヴォオオアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!さっきよりも近...2022.06.19 06:13
獣、迎撃獣は夜通し走り続けた危険な敵だ、このまま生かしておいては獣の頭領としての地位が危ない本能が初めて認定した明確な敵圧倒的な強さを誇る獣にとってそれは一種の喜びに似た感情も同時に呼び起こした太陽が高く昇っている普段明るい内はどうにも力が出ず、行動するのはほぼ夜間だしかし今は一刻も早く奴らを排除しなければならないし、おそらく初めてと言っていい強敵との戦いだ狩りはただの食事だ戦いとはまったく違う食欲を満たすのではなく、衝動を満たすのだ走れ、走れ、走れ、走れ落ち着いていたはずのランジュが背中を丸め、耳と尻尾をピンと立てたそれを合図にドラゴマンと剣士が頷き合うその時だったものすごい速さで何かが通り過ぎたあと、一瞬遅れて風が彼らを襲う急いでランジ...2022.06.19 05:42
山の獣ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥ奴が再び咆哮するおそらくこちらの獣の気配に気づき挑発しているのだろう猿山のボス争いに付き合っている暇はない西側に渡るまでは早くて数日。ランジュとスミスの暴走が先かもしれない「奴らの縄張りである道中で襲われたら勝ち目はないだろう。」ドラゴマンに呼ばれて集まっていた全員に説明を始める「どうせ数日かかる山道だ。少しくらい寄り道したって大して変わらないだろう」意味深げに片方の口角をあげて見回す。不敵な態度をとることで、ひとまずアムとランジュを安心させてやらねばドラゴマンの作戦はこうだどうせもうすぐ日が暮れるキャンプが設営できる程度の広場を見つけ、迎え撃つスミスに少しずつ力を解放してもらい誘き寄せる...2022.06.18 08:49
オラン山脈少女の名はアムというらしいランジュは先輩を気取ってあれやこれやと世話を焼いているが、反応は薄い隠れていたとは言え、目の前で家族や村の知り合いが皆殺しにされたのだランジュが一生懸命にアムに話しかけている様子をぼーっと眺めていると、スミスが横に並んできた「あの子も帝国へ連れて行くのか」「身寄りがないあの子を放っておくわけにもいかないだろ。それに俺たちが頼るのは皇帝陛下だ。今までよりもいい暮らしができて復讐のことなんてさらっと忘れてくれるさ」何故か咎められたような気分になり、説明が少し言い訳がましくなってしまったここはオラン山脈神話の時代に勇者アルパたちが封印したという伝説の獣が元々棲んでいたとされている場所西側のイーサ地方と中央のポリゴ...2022.06.18 07:33
復讐の黒い炎②村の家々の燃える熱で数メートル先の景色が歪むランジュの案内について先を進むドラゴマンは、つい先ほどまで営まれていた生活の痕跡を見回して言葉を失っていた倒れている人々の眼は大きく見開かれ、未だそこに居座り続ける恐怖に慄いているようだ「むごいな…」スミスが一言呟いた。その眼は赤く爛々と光っているドラゴマンが頷くと同時に足元を雨粒が濡らす空が痕跡を洗い流そうとしているかのように、すぐに激しくなった普段は雨を嫌うランジュが、濡れることを厭わずに進んでいる。鬼気迫る小さな背中を見つめながら歩いていると、唐突にランジュが立ち止まり、暴虐の嵐に晒されたボロボロの井戸の方を指さしたランジュとあまり変わらないだろう年恰好の女の子が、煤や埃に塗れたまま...2022.06.17 14:03
復讐の黒い炎村だった場所へ足を踏み入れると、そこは話に聞く魔獣災害よりも人間同士の戦争の跡に近かった逃げ惑ったのであろう村人たちは背中から斬りつけられたようだ民家からは略奪の痕跡が残っている異変に気づく前、王国へ続く大きい方の道を数台の馬車が走っていくのを見かけたドラゴマン達はなるべく人目を避けようと細い支道の方を進んでいたのでかち合うことはなかった奴らの仕業だったとしたら、村へ向かうのを咎められ襲われでもしたかもしれないしかし盗賊団にしては立派な馬車が並んでいたが、一体どういうことなのか?ヒーローズの再誕により少なくとも中央の表面上は歴史上類を見ないほど治安が保たれているそんな時代にあんな大規模な盗賊団が王国軍や治安維持軍、ヒーローズの目から...2022.06.16 14:15
オラン山脈麓の村ヴィランズ帝国を目指して西へ向かっている眠り姫を預かったと思ったら岩で覆われた大男に襲われ、眠り姫が虎娘になった虎娘の暴走によって仲間が4人と隠れてついてきた幼い少年が死んだ馬車も壊され荷物が重い残った2人の仲間と大男、虎娘とドラゴマンの5人はオラン山脈の麓の村を目指していた馬車が調達できればいいのだが、最悪背嚢でもいいだろう王国で用意していた大陸の地図は立派な装丁に反して中央以外の地理はあっさりとしたものだった「山脈を越える登山道の入り口が載ってるだけまだマシか…」自分に言い聞かせるようになるべく前向きな意見を口にするどうやら王国は中央以外を大陸と見做していないらしい一般市民には西側の情報はちょっとした昔話と噂話程度しか流通してい...2022.06.16 13:57