20.獄炎に魅入られし者①大陸を縦断するオラン山脈から南に連なる、獣の森コントラ国王と神官長エンジャーニャの祖先によって恐ろしい獣が討伐された神話の地であるコントラクト王国の子どもたちは小さい頃にふたりの冒険譚を聞いて育ち、そして恐怖するそれは、この森などの危険な場所に子どもたちを近づかせないようにするという昔からの知恵でもあった欲望に取り憑かれた大人は、時に幼い子どもよりも愚かである強大な力を持つ獣の伝説は広く知れ渡っており、後の権力者達により王国の権威を示す意味でも壮大な冒険譚に整えられているその真実を知る者はもうい…2022.06.05 04:33
19.獣の森王国の西側、オラン山脈の南に連なる『獣の森』そこには今も王国で語り継がれる童話がある初代ヒーローたちの時代のさらに前オラン山脈には一匹の強大な獣が住んでいたその姿は鱗に覆われた龍のようだと言う者もいれば、巨大な鹿のようだと言う者、冷酷なほどに白い虎のようだと言う者もいるつまり、はっきりと姿を目撃した者はいないのだろう獣は山から降りてきては近隣の町や村を襲い、人々を食い、生贄に若い娘を要求するそんな傍若無人に振る舞う獣に、麓の住民達はいつも怯えていた年に一度ほどの頻度で若い娘を生贄にとられ、住民の…2022.06.05 04:16
18.ドラゴマン(現在)②あの日、俺がどうなったのかヴィリスの話では突然黒い光に包まれた俺は黒い龍のような鎧を見に纏い、暴れ出したという神殿騎士達が束になっても敵わず、神官たちも加わっての大きな戦闘になったとのことだったが、神殿の本館では変わらずミントの儀が進行していたらしい「儀式が続けられたということは、ああいう事態も想定済みだったんだろう」とはヴィリスの言葉だヴィリスは留学生としてミントの儀の見学のためにあの場にいただが途中で失敗した俺のただならぬ退場に興味を持ち、そっと抜け出して後を追ったのだという「だいぶ凄かっ…2022.06.04 09:44
17.ドラゴマン(現在)①あの日、ボロ雑巾のように捨てられていた俺を拾った男は、西側の国の一つ、ヴィランという国の王子だったらしいヴァイラン地方ではかなり豊かな国で、俺も当時名前くらいは聞いたことがあったオラン山脈により分割された西側と中央の両地方の間にはほとんど交流はない相当な戦力か、それを雇えるほどの財力がない限り人間が山脈を越えることは難しかったからだヴィラン国は王子に相当な期待を寄せていたのだろうそういった事情をおしてでもこの王国に王子を留学させたのだから西側の壊滅の報せはあの雨の日の数日後王子が使役する空飛ぶ使…2022.06.04 09:06
16.ドラゴマン⑦寒いそれより腹が減ったいや、そんなことよりも俺が意識を取り戻すまで出番を控えていたかのように、痛みが身体中を駆け巡った喉もやられているのか、悲鳴にもならない空気の抜けるような湿った音が耳に障る何でこんなことになっているんだ?激しい痛みに悶えながらも、不思議と冷静に思考を巡らすしかし絶望感や怒り、空腹などの強い欲求がこの状況に対しての記憶を呼び覚ます邪魔をするめちゃくちゃだ…どうしてこんなに痛いのに死ねないんだ…絶望が他のすべてを呑み込む感覚に、また我を失いそうになった…その瞬間「あれだけこっぴ…2022.06.04 08:42
15.ドラゴマン⑥「あれ?」リリアやガイの様子を見ながら立てた予測に反して、俺の体が光始めることはなかった呆然としながら左手に目を移す光は発していない見つめたままの左手を握ってみるまだ体は光らない「何でだ!クソッ!何でッ!」信じがたい…自分がヒーローになれない事実に冷静さを失い、憐れみを孕んだ目でこちらを見ながら祝詞の続きを読み上げている神官に怒りを覚えた俺は我を忘れて掴み掛かろうとした両腕が掴んだのは空視点が反転し、気づいた時には壇上に組み伏せられていた普段なら負けはしないだろう神殿騎士ふたりに抱えられ、力な…2022.06.04 08:30
14.ドラゴマン⑤リリアはミントエーテルを飲み干すと、神官の呪文と祭壇の光の中で自ら光を放ち始めるそれは今まで見たこともないような慈しみと美しさを備えた荘厳な姿だったリリアを包んでいた眩い光が彼女の体の中に吸収されていくと、ヒーローとなった彼女の姿をはっきり見ることができた間違いなく強いこれなら多くの人々を守れるだろう遠い祭壇の上からこちらを一瞥すると、彼女は西側へと早速旅立っていった俺を信じて先にいくということらしいたぶん彼女がこちらを見たのは早く追いつけよ、というような意味だろう負けるのが嫌いな俺は不敵な笑み…2022.06.03 15:58
13.ドラゴマン④ミントの儀の日取りが決まり、ヒーローとなるための訓練の激しさは増していった実戦訓練が増えたので、俺も一層楽しんで訓練に臨むことができていたそんな中、ある日ミシェルがふと言う王国は規模が大きく軍事力もあるので今は安全だが、他国はそうもいかないらしい小国が集まっている西側が心配ヒーローとなったあとに行動の自由があるかは不明だが、自分は西側を助けにいきたい俺も同じようなことを考えていたのだが、同じ意見だと言うとミシェルが嬉しそうな顔をするので、悔しいからそうだな、とだけ返しておいたそっと顔を盗み見ると…2022.06.03 15:46
12.ドラゴマン③俺たちが聞いていた話では、ミントの儀には大神樹ミントの葉をすり潰したものが必要だが、かなり貴重なものであるらしかった候補隊にいるだけでも数百人はいるそんな貴重なものが人数分あるのだろうか?しかも今回は伝説の災害時とは違い、広いと言われるこの大陸全土で発生している事象だ本来なら数百でも伝説のヒーロー達と同じ1000人でも、おそらく足りないだろうということは一般の市民たちからも広く募るのであろうか?そう疑問に思っていると、神殿から状況の説明に来たという神官が大きな声で説明を始めた正直声のデカさだけな…2022.06.03 15:32
11.ドラゴマン②隊舎が慌ただしくなったことに気づいたのは夏なのに少しひんやりとした雨の日だった庭で早朝から行う基礎訓練は中止になり、屋内の演舞場に集合したくらいだったろうか教官や事務員たちがいつになく深刻そうな顔をして忙しなく駆け回っている俺たちはそんな大人達を放っておいて訓練を始めることにしたたいていの候補者たちは教官達のただならぬ様子に落ち着かない様子だったが、ミシェルはそんな様子が面白くて仕方ないようだったジメジメとした空気が肌にまとわりついて気持ち悪いざわざわした隊舎の様子が少し変わったかなと気づいたタ…2022.06.03 15:10
10.ドラゴマン①昔から俺は周りと違っていた俺は強かったそんな俺を周りは称え、次のヒーローのひとりだと持て囃したそういう空気になると逆に少し醒めてしまう自分がいる王国軍でヒーロー候補を集めるという話になった時、俺は気が進まなかった戦うことは嫌いではない強さだけを称えられて育った俺は、それだけが自分の取り柄だと思うようになっていた周りの誰が俺を嫌っていようが、戦えば俺が勝つ それが世界の理だと思っている一つだけ気に食わないことがある幼馴染のミシェルにだけは勝つことができていないことだミシェルはこの世界が好きで、俺は…2022.06.03 14:56
9.帝国⑥ヴィリスの狙いはただがむしゃらに領土を拡大することではなかった王国への留学で政治学や帝王学を学び、貪欲に知識や経験を吸収してきたヴィリスには、領土がただ広ければいいという考えは浅はかに思えた王国留学の終盤、主に大神樹ミントと創生神話についての知識を狂ったように吸収していたヴィリスは、西側に伝わる大神樹ジェノラの神話との共通点に気づいたXヒーローズの誕生を間近で見ていたヴィリスは異形の姿でジェネラティばれ、発狂して捕獲される者、その場で殺される者、逃走する者、その場で燃え尽きる者の存在を知っている…2022.06.03 14:37